ある分析は、海洋関連の取り組みにより、世界中の温室効果ガス排出量を2030年に約40億トン、2050年には110億トン以上削減できると予測しています。この110億トン超は、世界中の石炭火力発電からの全排出量、または、自動車25億台分の排出量に匹敵します。
各国政府は、海洋生態系に蓄積された「ブルーカーボン」生態系の保全と、ドイツ1国分の排出量より多い国際海運の二酸化炭素排出量の削減のための、ゼロエミッション燃料への転換の推進といった、海洋関連の取り組みを優先・奨励し、投資しなければなりません。その重要な第一歩として、各国は海洋における取り組みを「自国が決定する貢献(INDC)」に統合し、COP26に備え、海洋を最重要解決策として気候変動計画に盛り込む必要があるでしょう。
2050年までの気候変動緩和に向けた、海洋に焦点を当てた5つの気候行動分野の貢献度(イメージ:World Resources Institute)
第5の行動は、世界の指導者が、3つの新たな海洋保護区(MPA)の設定に合意し、南極大陸を取り囲むおよそ400万平方キロメートルの海域を保全することにより、史上最大の海洋保護活動を展開することです。10月に予定されている「南極の海洋生物資源の保存に関する委員会(CCAMLR)」の会合は、25の加盟国・地域が一堂に会するまたとない機会であり、世界規模の影響をもたらす進展が期待されています。
冷戦時代のただ中、世界中が南極条約を採択し、南極大陸全体が平和的利用と科学的調査のための地とすることができたのなら、南極を取り囲む海のほんの一部を守るために、いま、世界中に結集を呼びかけるのは無理難題なことでしょうか。
1961年発効の南極条約60周年を記念するにあたり、これ以上の妙案が私には浮かびません。それでも私は、孤軍奮闘しているわけではありません。政治指導者、科学者、市民などあらゆる人々が、新たな海洋保護区の設定に賛成票を投じるよう「南極の海洋生物資源の保存に関する委員会」に要請しており、いまでも協力が可能であることを立証しています。
数千年に及び、私たちは海から生きる力をもらい、海と深い繋がりを築いてきました。今回紹介した5つの行動を通じて、私たちは海に恩返しができるはずです。5つの行動は、海を豊かな財産として取り戻すきっかけになります。不公平で破壊的な収奪状態から、誰ひとり取り残さない、健全で公平、豊かな海へと、運命を一変させるきっかけを作ることができます。
誰もが海を救えます。声を上げ、たくさん質問をし、政府に意見書を送り、情報を広く伝えましょう。人々が健康を保ち、地球上のすべての生命が豊かに繁栄するためには、健全な海が不可欠であるという事実に光を当てましょう。
(この記事は、世界経済フォーラムのAgendaから転載したものです)
連載:世界が直面する課題の解決方法
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