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2021.06.06

木造都市をつくる! 「燃えない木」誕生の熱すぎる物語

シェルター代表取締役会長 木村一義


帰国後さっそく試行錯誤を重ねて、木と木を金物で接合するKES構法を開発した。74年、シェルターを設立して、新工法で社屋を建設。「約半世紀たったいまもびくともしない」というこの社屋が、日本で最初の接合金物工法による建築物になった。


ホームの山形県山形市。シェルターは国産木材の使用にもこだわっている

在来工法しか知らない職人たちには鼻で笑われた。新工法にとまどって作業が遅れ、棟木をかけるのが上棟式に間に合わないこともあった。父からは「他の職人の前で恥をかかせた」と激怒された。

斬新すぎて、KES構法でわが家を建てたいという施主も現れなかった。当時はやり始めていたツーバイフォー住宅の受注で会社をなんとか存続させたが、資金ショートで倒産しかけたこともある。

風向きが変わったのは、88年にフランチャイズ展開してからだ。しばらくしてバブルが崩壊。中小零細の工務店が活路を求めてKES構法の加盟店になり、全国で124店を数えるまでに拡大した。

KES構法の強度は、95年の阪神淡路大震災でも証明されている。神戸市などに、KES構法で建てられた3階建ての木造住宅が73棟あった。しかし、倒壊した家は一軒もなかった。

地震から1週間後、調査のため被災地に入った木村は、目の前に広がる光景をいまでも思い出す。

「現地入りする前は、在来工法で建てた家屋もある程度残っていると思っていました。しかし、7人が亡くなった某地区では、KES構法で建てた1棟と、その1棟が支えになって全壊を免れた両隣の2棟以外、跡形もなく倒壊していました。そのすぐ近くに、線香と子どものおもちゃが供えられていた現場がありましてね。住宅の基本は、命と財産を守ることだと思いを強くしました」

ヒントはコンビニのサンドイッチ


KES構法の開発で、木造の強度は格段に増した。では、もう1つの壁である耐火性能はどうやって乗り越えたのか。

日本では、法令により、4階以上の建物の柱や梁には1時間以上の耐火性能が求められている。通常の木材はこの基準を満たさず、3階建てまでしか建てられない。耐火性能を高めるため、木材に不燃材料を含侵させたり、中にセメントを流し込む方法も研究されている。しかし、それらの方法はコストがかかり過ぎるうえ、加工に手間がかかる。実用に耐えうる方法を模索していた木村が目をつけたのは、壁の下地材に使われる石こうボードだった。

「石こうボードは燃えにくいだけでなく、安くて、のこで切れるくらいに加工も容易です。柱のまわりを石こうボードで覆って防火壁をつくり、さらにその上を無垢の化粧材で覆う三層構造にすれば、“燃えない木”になる。コンビニでサンドイッチを買ったときに、ふとひらめきました(笑)」

原理は単純でも、実用化は簡単ではなかった。耐火試験は、柱を特殊な炉に入れて行われる。4面からガスバーナーで火を1時間以上吹きつけた後、3時間密閉。炉内の温度は最高約1300℃まで上がるが、燃えてはいけない部分に少しでも焦げ目がついたら不合格だ。

「1回目は大失敗。中の温度が上がるスピードを遅くしようと思って外側の化粧材を厚くしたら、化粧材が燃料になり、かえって温度が上がってしまった。かといって薄過ぎても熱がすぐ中に届いてしまう。ちょうどいい厚さにするため、何度も実験しました。うちは世界で一番耐火試験をやっている会社です」
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文=村上敬 写真=佐々木康

この記事は 「Forbes JAPAN No.081 2021年5月号(2021/3/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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