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2021.06.04 13:00

黒色ステンレス市場が開花。競合を突き放す攻めの手

photograph by Naoki Ohoshi

photograph by Naoki Ohoshi

中小企業の事業者にとって苦しいビジネス環境が続くコロナ禍だが、現在を備えの時期ととらえて、積極的な体制強化に取り組んでいる企業がある。ステンレスの表面加工処理を手がける大阪府八尾市のアベルだ。

同社の主力商材は、「電解発色」という手法によって、表面に極薄の酸化皮膜を生みだし、光沢を帯びた漆黒を発色する独自開発のステンレス「アベル ブラック」。曲げ加工しても変色しない、剥がれない、裏表どこでも色が均一、光が乱反射しないなど、塗装やメッキと比べて優れた装飾性・機能性をもつ。

2代目社長の居相浩介は、先代が開発したこの黒いステンレスを世に広めるべく、建築業界を皮切りに、高級自動車の窓枠やハイブランド店舗の内外装、インテリアなど、続々と新しい用途を切り開いてきた。

最近では、市場関係者の間で黒色発色ステンレスの注目度が高まり、ついに類似の製品を開発・販売する競合が現れ始めた。アベルが体制強化に励んでいるのはこのためで、居相は「脅威ではあるが、競合が出てきたのは、市場にポテンシャルがある証しでもある」と期待感を示す。

流通面では、これまでの関西圏に加え、関東圏での販売を加速させるため、ステンレス卸業のパートナーと連携し、関東に物流拠点を設ける予定。人材面では、2020年春に同社初となる大学新卒者を採用。「若い人材が入ると、先輩社員たちもモチベーションが上がって、社内にはいい風が吹いている」と居相は話し、中長期的な人材育成に向けて、今後も採用活動を継続していく方針だ。

さらに現在、数億円を投じて、本社の隣接地に第2工場を建設中だ。完成は2年後を見込み、従来とは異なる機構の設備を採り入れることで、アベルブラックの生産能力を現在の2倍以上に高める。

「会社を成長させることを考えれば、長期的には何もしないことのほうがリスク」と居相は覚悟を示す。「いまが攻め時です」。


いあい・こうすけ◎東京のIT企業で営業の経験を積んだのち、2004年、父親が経営するアベルに入社。19年に社長に就任。「Forbes JAPAN SMALL GIANTS AWARD 2019-2020」ではカッティング・エッジ賞を受賞した。

文=眞鍋武

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