同社の主力商材は、「電解発色」という手法によって、表面に極薄の酸化皮膜を生みだし、光沢を帯びた漆黒を発色する独自開発のステンレス「アベル ブラック」。曲げ加工しても変色しない、剥がれない、裏表どこでも色が均一、光が乱反射しないなど、塗装やメッキと比べて優れた装飾性・機能性をもつ。
2代目社長の居相浩介は、先代が開発したこの黒いステンレスを世に広めるべく、建築業界を皮切りに、高級自動車の窓枠やハイブランド店舗の内外装、インテリアなど、続々と新しい用途を切り開いてきた。
最近では、市場関係者の間で黒色発色ステンレスの注目度が高まり、ついに類似の製品を開発・販売する競合が現れ始めた。アベルが体制強化に励んでいるのはこのためで、居相は「脅威ではあるが、競合が出てきたのは、市場にポテンシャルがある証しでもある」と期待感を示す。
流通面では、これまでの関西圏に加え、関東圏での販売を加速させるため、ステンレス卸業のパートナーと連携し、関東に物流拠点を設ける予定。人材面では、2020年春に同社初となる大学新卒者を採用。「若い人材が入ると、先輩社員たちもモチベーションが上がって、社内にはいい風が吹いている」と居相は話し、中長期的な人材育成に向けて、今後も採用活動を継続していく方針だ。
さらに現在、数億円を投じて、本社の隣接地に第2工場を建設中だ。完成は2年後を見込み、従来とは異なる機構の設備を採り入れることで、アベルブラックの生産能力を現在の2倍以上に高める。
「会社を成長させることを考えれば、長期的には何もしないことのほうがリスク」と居相は覚悟を示す。「いまが攻め時です」。
いあい・こうすけ◎東京のIT企業で営業の経験を積んだのち、2004年、父親が経営するアベルに入社。19年に社長に就任。「Forbes JAPAN SMALL GIANTS AWARD 2019-2020」ではカッティング・エッジ賞を受賞した。