私の場合、キャリア形成のために仕事を選んだことはなく、自分の専門性や経験を誰かが評価してくれて次の仕事をいただくという繰り返しでした。それは企業内でもそうですし、他企業からいただいたお誘いもそうです。そして、幸運にもいつも面白い仕事をさせていただいてきました。
コントロールすることのできないキャリアという掴み所のないものを追い求めるよりも、目前の面白いものに最大の集中力で取り組み、自身を高めていくという歩み方もあると思います。そして何より、面白いものを追い求める時間は、人生を豊かにしてくれるものだと思います。
企業の将来の糧を創出する「変な人」になる
面白い仕事を追い求める人たちのなかには個性的で「変な人」も多く、私がこれまで勤めた会社でも多くの変人や奇人を見てきました。彼らは、自分が情熱を注ぎ込み創造した技術や商品を心から愛し、世界に新たな価値をもたらすものであると自信を持っています。創業期のソニーが「出る杭求む」という採用広告を出したのは有名な話ですが、常識を常識とせず、「突破」していくイノベーターを求めてきたということなのでしょう。
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さまざまな困難を突破していく人の自信はあながち見当違いではなく、彼らが価値あるものを世の中に送り出す様を何度も見てきました。なぜ変な人が新たな価値を創出できるのかというと、それは彼らが普通の人とは全く違う観点で物事を見ているからだと思います。言い換えると、既存の常識そのものを疑い、その裏に潜む本質を常に追求しているということになります。
成果主義を導入した企業においては、短期的かつ個人的な目標が定義され、その目標達成に向けて社員は邁進します。このスキームは非常に明快である一方、運用によっては社員が自身の目標達成のために利己的になる恐れもあります。社員の目標を5年や10年というスパンで、会社のビジョンを念頭に目標設定している企業も少ないのではないでしょうか。
変な人は常に5年、10年先を見通すことに注力します。そして世界に新たな価値をもたらすことに情熱を持っています。そして、その見通した先の「ストーリー」を組み上げていて、「ストーリー」が実現されるように行動します。結果として、1年ごとの目標設定を基本とする成果主義的な箱からはハミ出してしまいますが、企業の将来の糧を創出することになります。
新たな価値創造ができず縮小均衡になった産業や企業においては、言われたことをやる能力よりも、言われなくても企画し実行できる能力が必要になっています。