例えば、毎日の買い物での「ありえないこと」。コロナ禍で近所のスーパーやモールに行く人が増えたが、街の青果店や鮮魚店に通う人はどのくらいいるだろうか。お店をいくつもハシゴして買い物するなんて非効率でありえない?だとすればそれはチャンスだ。精肉店、豆腐店、書店、花店。街にあるこぢんまりとした個人店に、勇気を出して入ってみよう。見たこともない野菜があったり、お店の人に魚の旬や花の名前の由来を教えてもらえたり。思いがけない発見が必ずあるはずだ。
2つめ、街歩きでの「ありえないこと」。あなたが最近Googleマップの高評価やレビューサイト上位の場所にしか行ってないとすると、それは街と生活がありふれたものになってしまう第一歩かもしれない。「Placy」というアプリは、音楽で場所を探せる新しい地図アプリ。自分の感性にあったお店や場所と出合うことができる。他人のレビューではなく自分の感性を頼りに、街を散歩してみてはどうだろう。ちなみにそういう場所は3密にもなりにくい。
古地図を片手に歩くのも楽しい。過去という「ありえないもの」に出会えるから。
3つめ、インターネットでの「ありえないこと」。去年から動画やSNSに触れる時間がさらに増え、気がつけばYouTubeを見て、Instagramを眺めている。自分の好みに最適化されていくので楽しいが、一方で「ありえないもの」はどんどん除外されていく。どうすればいいだろう。注意して見ると10に1つくらい「自分向けではない、絶対に見なそうなもの」があることに気づく。
普段は目にも入らないが、実はそれこそ半径50cmの「ありえない」への入り口。試しにクリックしてみよう。触れたことのない「隣の世界線」を垣間見ることができるし、広告やおすすめも少しずつ変わっていく。
さらに先鋭的な事例なら、海外に「TheirTube」という実験プロジェクトもある。陰謀論者や果食主義者、地球温暖化否定者が見ているYouTube動画を表示するというすさまじいサービスで、同じ地球に生きているのにこうも違う世界を生きているのかと、衝撃を受けるだろう。
これまで脱均質化によいとされていたのは、旅に出ること、人と話すことなど。あいにくいまはそれがかなわないが、落胆は無用だ。いまは「ありえないこと」を信じて自分のなかに多様性を育てる絶好のチャンスなのだ。外で変化に出合えないなら、自分のなかに変化を招き入れてみよう。移動に時間がかからない分、探索に時間をかけてみよう。うまく見つけられたら、買ってみたり応援したり、消費で多様性を生み出そう。
難しいことは必要ない。一度買ってみることが、一度時間を使ってみることが、信じる練習の第一歩だ。それは少しだけ日常を変異させ、その変異は蓄積していく。その蓄積こそ多様化への投資であり、セレンディピティの処方箋だ。均質的で繰り返しの日常から脱するために、ほんの少しの「ありえないもの」を。白の女王に倣って、まずは1日30分から。皆さまもぜひご一緒に。
電通Bチーム◎2014年に秘密裏に始まった知る人ぞ知るクリエーティブチーム。社内外の特任リサーチャー50人が自分のB面を活用し、1人1ジャンルを常にリサーチ。社会を変える各種プロジェクトのみを支援している。平均年齢36歳。合言葉は「好奇心ファースト」。
山根有紀也◎電通Bチーム薬学担当。大学で薬学を専攻したのち、マーケティング、商品企画と立場を変えつつも一貫して「人の知覚と認知の仕組み」に興味。あらゆる体験を「薬」に見立て、日常を新しくする方法を探究中。
本連載で発表しているすべてのコンセプトは、実際にビジネスに取り入れられるよう、講演や研修、ワークショップとしても提供しています。ご興味ある企業の方は、Forbes JAPAN編集部までお問い合わせください。