相手を気遣う力。そこに仕事の本質が現れる──佐藤可士和の成功術

Jeremy Sutton-Hibbert/Getty Images


超多忙ななかで、どのようにしてたくさんの仕事が進められていくのか。その意外な秘密を明かしたのが、自著「佐藤可士和の打ち合わせ」でした。打ち合わせこそが、重要なポイントだったというのです。

「打ち合わせとは、仕事そのものです。実はとても重要なクリエイティブな場です。打ち合わせ自体がアイデアを考える場であり、プロジェクトの方向性を決める場なのです」

常時、数多くのプロジェクトを抱えていて、いったいいつアイデアをまとめたり、デザインを考えたりするクリエイティブの時間をつくっているのか、よく聞かれるそうです。

「デザインを仕上げるための時間はもちろん確保していますが、あらためてアイデアをまとめる時間を取ることはありません」

実は、まさに打ち合わせの時間にこれをやっているのです。打ち合わせは、相手と一緒に何かをつくり上げる場であり、アウトプットの場なのです。相手がクライアントであっても、協力スタッフであっても同じだそうです。

打ち合わせは完全に意思決定される前のプロセスのようなもの、「練習」のようなイメージを持っている人も少なくありませんが、佐藤さんはそうではありません。「何をやるのか」は打ち合わせでこそつくられるのです。

「すべての打ち合わせは、試合であり、本番です。真剣勝負の場なんです」

そして、この自著のなかに、これこそが佐藤さんの真骨頂ではないかと思える言葉がありました。

「相手を気遣えるかどうか。そういうところにこそ、仕事ができるかどうかの本質が現れる」

気遣いをする力こそが、仕事の成否を大きく分けるというのです。

「仕事の相手がどう思っているか、どんなことを求めているかを、どのくらいイメージできるか。僕はそうしたイメージ力こそが仕事力だと思っているんです。もっとわかりやすい言葉で言えば、先を読む力。仕事をするうえで、ものすごく大切な力です。そのなかのマインドの部分が気遣いなんです」

では、気遣いができるとはどういうことなのか。例えば、佐藤さんがテレビCMの制作依頼を受けたとすると、前作がどんなCMだったか、当然知りたい。

そんなとき、発注者が気遣いのできる人であれば、前作だけではなく、「きっとこんなものも欲しいはずだ」と去年のものや、一昨年のものもちゃんと用意しておく。そうすれば、佐藤さんは過去のCMと似たような企画は、最初から除外して考えられるわけです。

さらに気遣える発注者ならば、そればかりではなく、競合の会社がどんなCMをつくっているのかも調べて用意しておくのです。

「ここまで用意周到だと、この人はデキると認めないわけにはいかない。先を読んだイメージ力がある人だということになります。これからのプロジェクトも楽しみになります」

逆に、何を求められるか、先のことがイメージできないと、何度も打ち合わせが必要になってしまったりする。また、わざわざ要望を出さなければいけなかったりする。佐藤さんの本には、来客との打ち合わせに出すお茶にまで気を配っていることも書かれていました。

「相手に喜ばれることこそ、仕事の成功だと思っています。どうすれば喜んでもらえるのか。それを考えたら、自然に気遣い力も高まっていきます」

実は「答え」が相手のなかにあることも少なくありません。気遣いができる人は、そういうところにまで手が届きやすくなるのです。相手が求めているものに、気づきやすくなる。クリエイティブのヒントは、実は身近なところにあったのです。

連載:上阪徹の名言百出
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文=上阪 徹

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