相手を気遣う力。そこに仕事の本質が現れる──佐藤可士和の成功術

Jeremy Sutton-Hibbert/Getty Images

ユニクロやセブン&アイ・ホールディングスのロゴマーク、日清食品「カップヌードルミュージアム」の総合プロデュース、楽天のクリエイティブディレクションなど、話題のプロジェクトを次々と手がけてきた佐藤可士和さん。2021年春には、自らロゴデザインを手がけた国立新美術館で「佐藤可士和展」も開催されました。

佐藤さんは、多摩美術大学を卒業後、博報堂に入社。アートディレクターとして広告制作に携わっていましたが、広告の枠だけにとらわれない幅広いクリエイティブ領域で、突き抜けた活躍を続けています。

デザインを最上位に置いての商品開発


もともと考えることが好きだったといいます。いろいろなことについて、なんとなくわかったような気持ちでいるのは嫌い。それはどういうことなのか、きちんと理解したかったのだそうです。会社に入ってからも、それは変わりませんでした。

「仕事はとても面白かった。でも、どういうわけだか、何かが違うような気がしていて」

数々の広告賞やデザイン賞を受賞しながらも、その違和感は消えませんでした。そして博報堂に入社してから10年、ようやく答えが見えたといいます。

「ある飲料メーカーに、商品開発から手伝ってほしいと言われたんです。パッケージもネーミングも味も、そしてもちろん広告も。やっていてはっきりわかりました。自分のやりたいことはこれだったんだと」

広告代理店では、広告がまず最上位。広告をつくるところから、すべてが始まります。デザインはそのなかのパーツとして存在していました。

「でも、僕が求めていたのは、デザインを最上位に置くことだったんです。デザインがあって、そのアウトプットとしてプロダクトや空間、映像、広告がある。この形こそ、自分の形だと思いました」

デザインを最上位に置いて商品開発から携わると、広告コンセプトもあっという間にできたのだそうです。商品も見事にヒットしました。いままでの広告づくりが、靴の上から足を掻くようなものだったと思えたといいます。

「これで、独立することも、独立してからやることも、はっきりイメージができました」

とはいえ、すぐに独立はしませんでした。会社名が決まらなかったからです。それから約1年かけて考えたといいます。

「自分のやることを総称できて、なぜその社名なのかを説明できる。これがなかなか難しかった」

1年間ずっと考え続けていましたが、アイデアは簡単に浮かんできません。きっかけは、ニューヨークのロケで、現地のフォトグラファーから「可士和」という名前を英語で説明してくれないかと聞かれたことでした。

「可士和ですから、ポシブル、サムライ、ピースと答えたのですが、そのとき、あっと気づきました。探していた社名はここにあったと。キレのいいクリエイティブで、グローバルなイメージ……。全部つながりました。ロケから戻って、会社辞めるからとすぐ妻に言いました(笑)」

その社名が「SAMURAI」。SMAP、キリン、明治学院大学、ドコモなど評判となったプロジェクトを順調に手がけ、あっという間にSAMURAIという社名も知られるようになりました。

先を読むイメージ力こそが仕事力


そんな佐藤さんの仕事を支えてきたのは、もともと好きだったという「考えること」でした。

「例えば、カッコいい商品に出会ったら、やっぱり考えるんですね。これはどうしてカッコいいんだろう。何がそう思わせるのだろうかと。そこには、ちゃんと理由があるんです。売れている秘密は何か。どんなものであっても、いつも探ろうとしています。それは自分にはとても面白いことなのです」
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文=上阪 徹

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