当初は社内啓発を目的として社内研修プログラムとして実施していたが、研修を通して社員が学んでいく様子を見て社外発信を決めたという。今後はウエルシア薬局や神戸市役所などをはじめとした企業に、順次展開していく。
P&Gジャパン合同会社執行役員 広報渉外本部の住友聡子は、アライ研修の開発と社外への提供開始についてこう話す。
「カミングアウトを強要するのでなく、誰もが働きやすい職場を作ること。そのためには当事者の声を待っているだけじゃダメで、いるのだからその人たちのために何ができるのか。研修を開発していく上で、知ること、見えるようにすること、そして知った上でどのような行動を取れるのか、までを考えられるよう工夫しました」
一般社団法人fairの松岡宗嗣(左)と、NPO法人東京レインボープライド共同代表理事・ニューキャンバス代表取締役の杉山文野
会見の最後に松岡はこう語った。
「自分の方がより声をあげやすい立場にいると思う状況であるなら、積極的にアライシップを示すことは重要だと思います。その時にかわいそうな人と助ける人、LGBTQ+とそれ以外、などの二項対立ではないという点は大切です。性はもっと多様で当事者/非当事者と完全に分けきれないものである、といったことを考えながら、どのように自分が発信できるかを考えて頂けると嬉しいです。
自分に何ができるかわからず自信がないことや、自分のもつ知識が足りているのかを恐れる気持ちはわかります。でも怖さは大切な感情なのでむしろもっておきながら、失敗しても大丈夫なので臆せず発信していくことは大事なのではないかなと思います」
杉山も、アライシップを考えることの重要性をこう話した。
「『別に仕事に関係ないから職場にLGBTQ+の人がいてもいいよ』、『LGBTQ+は大人のベッドの上の話なんだから職場に持ち込まないで下さい』という大きな勘違いが生まれてしまっている現状もあります。LGBTQ+は性行為の話ではなく、アイデンティティの話です。
人がもって生まれた違いに課題があるのか、それとも違いを受け入れられない社会に課題があるのか。一人として同じ人がいないなかでは誰しもみんなマイノリティー性があって、マイノリティーが集まってマジョリティーというグループをつくっているだけだと思うので、マイノリティーの課題に向き合うことはきっとマジョリティーの課題に向き合うことだと思います。当事者は誰になら言えるかいつも探しています。そんな時にSNSの投稿を拡散するだけで、レインボーのシールが貼ってあるだけで、安心感に繋がると思います」
先月、性的少数者の課題に関する「理解増進法案」の国会への提出が見送られた。さらに同法案に関する自民党議員の発言が問題となるなど、根強く差別や偏見が残る日本社会の様相が浮き彫りになった。これを当事者だけの問題として傍観するのではなく、「自分らしいアライのやり方」として実践できることがあるはずだ。
LGBTQ+について考えることは、自分の隣にいる人について思いを馳せることだ。まずは身近な人が置かれている状況を想像し、その人を思う気持ちを少し発信してみることから、理解の輪は波及していくのかもしれない。