「NuZee Inc.」社長兼最高経営責任者の東田真輝がその人だ。日本の生活に馴染み深いドリップパックコーヒーの受託製造販売で会社を成長させ、2020年6月にナスダック市場へ上場するという、現地での起業としては日本人初*の快挙を成し遂げた。起業から9年の歳月をかけ、業界で「ドリップパックのNuZee」と名を知らしめるまでの地位を獲得する。そこまでの道のりは紆余曲折だったというが、巨大コーヒー市場にいかに立ち向かったのか。起業から成功までの軌跡、そして今後のビジョンについて、東田に話を聞いた。
*注:ナスダックOMXグループ暫定調査
起業9年目で成功 差別化できる商品が決め手
日本の約4倍、年間で約161万トンものコーヒー消費量(USDA2019年実績)を持つ米国市場に、ドリップパックでコーヒーを淹れるという〈新ジャンル〉を確立したNuZee。テキサス州に本社を構え、テキサスとカリフォルニア州に2つの自社工場を操業し、大手コーヒーメーカーや小売店、独立系ロースターを顧客相手に、ドリップパックの受託生産販売を行う。2018年に韓国に、2020年にはメキシコにも参入した。そして昨年には、米従業員17人の小規模経営ながら、創業時からの目標として掲げていたナスダック上場を果たし、優良企業としての地位を獲得する。
2011年、東田は渡米し、起業する。起業当初はニュージーランド産のミネラルウォーター輸入販売を手掛けていた。が、2014年に機能性コーヒーの製造販売へ、2016年にはドリップパックコーヒーの受託製造販売へと事業転換を図る。ドリップパックコーヒービジネスは実質4年で成長させ、会社目標を達成する。
「水では差別化にならなかった。ドリップパックは、米国には2015年までなかった。日本独自の差別化できる商品だったから、うまくいったのです。味はいい、安い、機器も要らない、そして何より環境にも優しい。こういう商品は需要がある」
勝因について、東田はこう話す。
10億ドル市場にドリップパックで挑む
当初、ドリップパックコーヒーをビジネスにする考えはまったくなかったという。営業先からの予期せぬ問い合わせがきっかけで、販売ビジネスを思い付く。
「ミネラルウォーター事業当時の営業先だった日本郵便からドリップカップコーヒーは扱えますか、という問い合わせがあったんです。やったことはなかったのですが、とにかく引き受けて、郵便局の要望通りに1杯20円と、我々の提案の1杯100円の高級ラインを納品したんです。蓋を開ければ、1杯20円のラインが6割、100円のラインは4割売れて郵便局の当時の売上ナンバー1に輝いた。いける! これを米国へ持っていけば、差別化できるし、売れると思ったんです」
東田がドリップパックの販売に乗り出した2016年の米国のコーヒー市場では、手軽に淹れられるシングルカップ抽出型のコーヒーメーカー「キューリグ」旋風が吹き荒れていた。給水タンクに水を入れて専用コーヒーカプセル「Kカップ」をセットして、ボタンを押せば、好きな豆で新鮮なコーヒーが淹れられる。手軽さとおいしさが人気を博し、大手コーヒーチェーンも相次いでK-カップ製品の販売を開始する。こだわりの豆ですぐに飲めるKカップ、この市場に東田は切り込む。