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2021.06.02

学び方には「コツ」がある。数学嫌いを工学部教授に変えた学習法

脳科学にもとづいた学習法を学べば、誰でも効率的に勉強できるようになる。学習法こそ、常に学びを求められる現代人の必須スキルになるかもしれない。


オークランド大学の工学部教授を務めるバーバラ・オークレーは、高校生のとき、数学や科学の成績がまったく振るわず、「理系の才能がない」と思い込んでいた。その後、米軍に入隊し、国防省語学学校でロシア語を学び、通訳として活躍。工学に興味を持ち始め、26歳でワシントン大学工学部に入学した経験をもつ。

「言語学習は数学や科学の勉強と関係ないと思われがちですが、実はその学習のテクニックはどちらの分野にもとても役立つものです」

彼女とノルウェーの教育テック企業の創業者、オラフ・シーヴェが上梓した『学び方の学び方』をもとに、オークレー教授に現代人に必須スキルとなった学び方のコツについて聞いた。

──この本の特徴のひとつは、認知科学や脳神経科学の知見にもとづいて、脳の仕組みから効果的な勉強法を説明しているところです。

脳神経科学から見て、実は現代の教育では間違った学習方法のアドバイスをしてきたことがわかっています。また、効果的な学習には睡眠が重要だ、ということは知られていましたが、なぜ睡眠が重要なのか、睡眠をとると脳内で何が起きるのかということはあまり知られていません。こういった理由や仕組みを知ることで、単に「十分な睡眠をとりましょう」と言うよりも効果的に学習できるようになります。

──本の中で、効果的な学習法として紹介されている「ポモドーロ・テクニック」について教えてください。なぜこの学習法が有効なのでしょうか。

ポモドーロ・テクニックは1980年代に当時学生だった起業家のフランチェスコ・シリロが開発した学習法です。

携帯電話やタブレットなど自分の注意を逸らすものを遠ざけて、まず25分のアラームをセットしてその時間にできる限り集中して勉強に取りかかる。その後5分間はご褒美としてリラックスする時間を設ける。これをワンセットにして繰り返していくのです。3回から4回ほどこのポモドーロ・テクニックを続けたら、今度は長めの休憩をとります。

とてもシンプルな方法ですが、脳神経科学から見ても大変有効です。というのも、アスリートも同じですが、ずっとトレーニングだけをしていても強くなれない。休憩をいれることで効果的に集中してトレーニングができるのです。世界トップクラスのアスリートは、何カ月、何年という年月をかけて筋肉を鍛え上げていくように、私たちも反復して神経回路を鍛えないといけないのです。短時間で詰め込んでやっても最高のパフォーマンスは出せません。

このポモドーロ・テクニックが有効なのは、学習法の「過程」に特化しているからです。時間を設定するだけで、「宿題を今日終わらせる」とか、成果物を目標にしていません。嫌なことをしないといけない、そう考えるだけで脳内では痛みを感じる部分が活性化するといわれています。

しかしポモドーロ・テクニックは、「25分だけこれをやれば、ご褒美の時間がある」と考えるので、とにかく始めることを促してくれる。脳は、集中する対象を頻繁に切り替えると疲れてしまう。「切り替えコスト」が発生するのです。1つのサイクルで徹底的に1つのことに集中するのは、効率的で効果的です。
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編集=成相通子 イラストレーション=山崎正夫

この記事は 「Forbes JAPAN No.083 2021年7月号(2021/5/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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