ビジネス

2021.06.15 07:00

アマゾンを2位に置き去る「ウォルマート」4つの先見の施策

2020年時点、通小売業界においてアマゾンより売っているのはウォルマートだ。


ここ4年くらい、米国の流通関連のコンベンションにいくと、「総合的なビジネスデザイン」の重要性が語られるようになり、大手クライアントの事例が説明され、重要性が年々増していることを感じる。ビジネスデザインとは、店舗でのオペレーション、ビジネスモデル、店頭スタッフの役割とKPI、アプリ開発や店頭システムとの統合、消費者とのタッチポイントの設計、データ活用の戦略や手法など、総合的にデザインするという手法である。
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2010年以後、米国の流通大手各社は「一斉に開発スタートでスピード重視。かつ数千店舗に導入の必要あり」という難題を抱えていた。

ほぼ崖っぷち状態で死闘に向かっているような状況、かつ、失敗してやり直す時間もないと各社のマネージメントは理解していたと思われる。数千もの実店舗にすばやくスケールさせるためには、「数店舗でPDCAをまわしてテストする」といったやり方ではなく、最初から総合的にビジネスを設計する必要がある。BOPISをいれるのにも、詳細のオペレーションやビジネスモデルを含めた、ビジネス自体をデザインすることが重要になる。そしてそのデザインをするときに、全店舗への拡大、スケール化を見据えてデザインし、必要なテストをPDCAでやっていくことが必要となる。スピードを求めるニーズから、ビジネスデザインの手法を使う大手流通が増加した。

Walmartは、2020年1月には、BOPISの仕組みの一つであるCurbside Pickupのサービスを、一気に3100店舗にするなど、最初からスケール化を視野に入れて設計を行なっていた。興味深いのは、この「ビジネスをデザインしてからのDX」という変革は、流通のみに止まらず、金融や車業界、消費財メーカー等でも進んでいることだ。
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複雑な、リアルな既存のオペレーションやシステムをもつ大手企業のデジタル化には、総合的なビジネス設計が業界を超えて重要だということを物語っている。

PCで買い物する様子
photo by shutterstock.com

3. 組み合わせで開発をスピードアップ

──APIでSaaS等を繋ぐ、パートナーシップを活用する


ビジネス設計をした後、実際のサービスのための技術を開発する際、導入までのスピードに重要なことは、「一から全て自社で開発しない」ことだと言われている。ホワイトレーベルやSaaSなどの特化型の技術やサービスの一部をAPIで繋ぐ、GoogleやAppleが提供している技術サービスなどを含めて既存の技術を繋ぐ、パートナーシップを組む。こうした“繋ぐ”ことと、自社開発を組み合わせることで、サービスの開発スピードを上げられる。

“組み合わせて開発した”金融の事例の最先端として、投資銀行であるゴールドマンサックス社が、短期間でスタートしたMarcusという商業銀行の開発方法は業界を驚かせた。金融事業に必要な一連のサービス機能やオペレーションを、「作る、繋げる、パートナーシップを組む」の3つを組み合わせて、常識外のスピードで銀行を立ち上げたのである。パートナーとしてはApple社と技術提携をし、その後、革新的と言われたAppleカードの発行元もMarcusが引き受けた。

4. デジタル化で新収益源を作る

──デジタル開発で、新しい収益源となる領域に参入


現在、米国の流通売上のトップはWalmart社である。2位のAmazonも売り上げを伸ばしているが、Walmartは売上げ、オンライン率、収益もあげ、トップの強さを見せている。これは、リアル店舗の強みを活かしOMOをすすめ、Amazonと戦うために大きなIT投資を続けてきた結果である。

2019年のIT投資額は、Amazon、Alphabetに続いて第3位であり、IT投資額トップ10で唯一の流通企業だったことが話題を呼んだ。2015年より、Walmart社は、自社の収益増のために集中する3領域を「金融、広告、ヘルスケア」と定義した。デジタルに投資を集中させることの目的は、流通で儲けることではないと発表して、デジタル化を進めてきた。現在、Walmartは、この3領域、「金融、広告、ヘルスケア」でデジタルを活用した収益性の高いビジネスを立ち上げ、拡大を続けている。

2016〜2019年までの約4年間で、米国流通は急激な変化を遂げた。次回の記事では、それらの変化に消費者がどう追いついたかを述べたい。

連載:米国の破壊的イノベーション、その最前線
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文=射場瞬 前橋史子

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