ビジネス

2021.06.01

週休3日制を「阻む人」と「普及への条件」

Westend61 / Getty Images


もっとも、こうした例はあくまでも先駆的な取り組み。「休日増で社員がリフレッシュし、仕事へのやる気も出ることで生産性向上につながる」などと効果に大きな期待を抱くのは短絡的かもしれない。厚生労働省が2020年に実施した「就労条件総合調査」によると、完全週休2日制よりも休日の日数が実質的に多い制度を採用しているのは全体の8.3%にとどまる。

同制度の採用がさほど広がっていない理由の一つは、受け入れ側に抵抗感が強いことだろう。週休3日制は大きく3つのパターンに分かれる。1. 休日を増やして労働時間を減らすが給与は据え置き、2. 休日を増やすが労働時間も増やして給与は変えない、3. 休日を増やして労働時間を減らすが給与も減、だ。前出のAさんは2、Bさんは1のケースにそれぞれ該当する。

問題なのは3のケースだ。給与減は受け入れられないと考える社員が多いとみられる。たとえ「副業」に力を入れても、「本業」と合わせた収入が必ずしも従来水準を上回る保証はない。3の仕組みを適用する企業は「コスト削減が目的」と受け止められてしまう可能性もある。

理由の2つ目は社員に対する評価である。Aさん、Bさんの働く会社はいずれも仕事の成果や結果に基づいて評価や処遇を行う成果主義を採用している。年度初めに目標を策定し、年度末にどの程度達成したかによって評価が決まる仕組みだ。労働時間の長さは評価の判断材料にならない。だが、成果主義が日本の企業社会の主流になったとは言い難い。いまだに「労働時間ありき」の会社も少なくない。

営業職などでは働き方の見直しに対する顧客側の理解も不可欠。時間を度外視して、要求し続ける顧客は存在する。また、同じ会社でも週休3日制と週休2日制の併用となれば、勤怠管理などの面でよりきめ細かな制度設計も求められよう。

一方、成果主義のなじまない職種もある。「警備や医療機関の当直など、時間を割くことそのものが付加価値を生む仕事の場合には、1日少ない労働時間で同等の付加価値を生むこと自体が難しい側面もある」(第一生命経済研究所の星野卓也・主任エコノミスト)。

コロナ禍で警察、消防、看護師、介護に携わる人々など日常生活を支えるエッセンシャルワーカーの忙しさは増すばかり。こうした状況下ではそもそも週3日制導入など難しく、人材難がなかなか解消されないという悪循環に陥っている面もありそうだ。

週休3日制普及のカギとしてもう一点、指摘したいのが企業風土の変革だ。「マネジメント層に対するトレーニングやコーチングが充実しているかどうかが重要」とBさんは振り返る。優先されるべきは休みを取れるような職場環境の醸成だろう。マネジメント層にそうした問題意識の共有を促す必要がある。

しかるに、有給休暇の完全消化すらままならない企業が少なからず存在している。「週休3日制の普及が目的であってはならない」と第一生命経済研究所の星野氏は釘をさす。

連載 : 足で稼ぐ大学教員が読む経済
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文=松崎泰弘

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