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2021.06.01

羊毛は、究極のサステナ素材? 「尾州ウール」産地がいまアツい理由

「ひつじサミット」最初の発起人となった、三星グループの岩田真吾社長

組織の規模は小さくても、世界を変える可能性を秘めた企業を発掘するForbes JAPANのスモール・ジャイアンツ プロジェクトが今年も始動した──。

今回は、未来のスモール・ジャイアンツを担う、アトツギたちが立ち上げた新たな産業観光の取り組みを紹介したい。

愛知県・尾張西部地域と岐阜県・西濃地域に沿って流れる木曽川流域一帯には、高級ウールを手がける「尾州(びしゅう)産地」がある。実は、イタリアのビエラ、イギリスのハダースフィールドに続き、高度経済成長期には世界三大毛織物産地と呼ばれ、ウール業界では世界的に有名だ。尾州ウールは、LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)やケリンググループのブランドにも採用されている。

羊毛から紡ぎ出されるウールは、古くから環境負荷の少ないサステナブル素材であり、最近ではその価値が見直されている。また秋冬用のイメージが強いが、体温調節がしやすい機能性などがあり、近年では睡眠時の「リカバリーウェア」としても注目されている。

そんな尾州産地で30〜40代のアトツギ11人(後継者、後継予定者を含む)が立ち上がり、ことし初めてサステナブルエンターテイメントと銘打って「ひつじサミット尾州」を企画し、産業観光の新しい形を打ち出している。

サミットとはいえ、なにも羊が集まって、重要な議題を話し合うわけではない。ウール生地の繊維・アパレル企業の工場見学やワークショップ、ショッピングを楽しみながら、持続可能性について学び、クリエイティブな旅をしよう、という提案だ。

なぜ、コロナ禍のいま、アトツギたちはこの企画をしようと思ったのか。その裏側には、産地としての焦燥感と希望があった──。


ひた走ってきた10年。コロナ禍、産地のためにできることは何か


最初の発起人は、天然繊維素材を手がける創業134年の三星グループ(岐阜県羽島市)の岩田真吾社長だ。もともと20代に大学卒業後、三菱商事やボストン コンサルティングを渡り歩いた岩田は、2009年にアトツギとして家業に入った。翌年4月に社長就任してからは、LVMHなどのメゾンブランドと直接交渉するなど、新規開拓に注力してきた。

だが昨年、未曾有の新型コロナウイルスに見舞われたことを機に「社長になってからの10年間、自社だけでひた走ってきたが、地域のためにやれることはないか」とひつじサミットの構想を始めた。

自社だけが成功したとしても、糸から織物に至るまで全工程が地域に集まり、分業体制で成り立ってきた尾州産地が廃れては意味がない。尾州はいまでも国内生産量の約8割を占め、日本随一のウール産地だが、1970年代の最盛期に比べて、企業数は20分の1程度に縮小している。さらにコロナ禍に苦境に立つアパレル業界の影響を受けている。最近では「尾州(BISHU)」として発信されつつあるが、国内で毛織物工業が栄えた後に生まれた世代にとっては、お膝元の愛知・岐阜でもピンとこない人もまだまだ多いのが現状だ。

こんな課題感から、地域の人たちを巻き込み、いまの時代に合ったサステナブルを軸に据えた民間発の産業観光を企画したいと周りのアトツギたちに声をかけ始めた。まず、ニット生地を手がける宮田毛織(愛知県一宮市)の宮田貴史・経営推進部部長だ。彼は、三井物産のグループ会社で品質管理などを担当したのち、2013年に家業のアトツギとして宮田毛織に入社した。

現在、岩田は39歳、宮田は36歳。2人とも商社出身でもあり、同世代として馬が合った。

宮田毛織
宮田毛織の宮田貴史・経営推進部部長
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文=督あかり

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