「芸術で食える」若手を増やす 現代アーティスト・椿昇の挑戦

AFKの会場の1つ、京都府京都文化博物館 別館で


GAFAもそうじゃないですか。前になかった新しいものが現れて、たった20年くらいで世界を変えてしまった。アートの世界も同じ。そんなことがあると信じるか、ないと考えるか。それによってアート界の未来は変わると思っています。

大事なのは新しい価値観や方法に対して心を閉ざさないこと。排除するのではなく、常に感性を開いておく。時代の風を受けて、それに対して誠心誠意向き合っていれば、社会は必ず評価してくれると思っています。

──現代の日本の若手アーティストが抱える問題点はどこにあると思いますか。その乗り越え方は?

アーティストは生き抜かなくてはいけません。その生き抜く場所を選ぶための方法は、自由に選択すればいい。しかしそれが日本にいるとなかなかできない、その選択肢すら提示されないのが現状です。

そう思うのは、僕がアメリカの西海岸で80〜90年代にデビューした経験が大きいと思います。まず、アーティストの立場が全然違う。アーティスト自身が違うジャンルの人たちと積極的に関わり、公私にわたってちゃんと「ビジネス」をしていたのが印象的でした。

美術館やギャラリーのディレクターは、アートイベントやパーティを頻繁に開いて、次々にパトロン候補となる大富豪をアーティストと引き合わせる。美術館というプラットフォームを使って資金を集めて、産業やビジネスを育成しているわけです。

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現代アーティスト、ARTIST’S FAIR KYOTO 2021ディレクター、京都芸術大学教授・東京藝術大学油画客員教授の椿昇氏。AFKで展示された作品の前で

──これからのアーティストには経営者的視点が必要なのでしょうか?

あった方が社会と接続はしやすいですね。僕らも大学の授業は、ビジネススクールのつもりでやっています。投資銀行のアニュアルレポートを読み解いて、アートへの投資額や市場を分析し、自分の作品をどう売ればいいかを考えさせている。芸術を用いて、どう自分自身をアーティストとしてマネジメントし、どう経営していくか。プロモーションの方法や経営管理も教える「芸術経営」ですね。

ただ、アーティストにもいろいろなタイプがあるから、こうした起業家のような考え方はみんなができなくてもいい。アーティストは作品に対しては責任持たなければいけないけれど、それ以外のことはやれる人がやればいいと思っています。

──今後、AFKの次にアーティストを支援するシステムはどのようなものを考えていますか?

次は育ってきているアーティストのために「描く場所」をつくってあげたい。制作スペースですね。だから空きビルでも何でもいいからとにかくドネーションしてくれとあちこち動いています。

結局大学院を出たら、どうやっても作品の質は落ちるんですよ。それは制作場所と時間が制限されるから。それまで在籍していたアートコミュニティから分断されてしまうことも大きいですね。

アートで食って行こうとした時、作品制作にかける時間も、場所も、コミュニティも失ってしまうことが、作家にとっては最大のクレバス(落とし穴)です。だから、それが継続できるような創作のエコシステムを京都につくりたい。

そしてそういう子にAFKで売れる場所を提供し、5年ぐらい働かずに朝から晩まで絵を描けるように支援することができたら、確実にワールドクラスのアーティストが日本から出てくるのではないかと思っています。

構成=高松孟晋 写真=神谷拓範 編集=松崎美和子

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