「芸術で食える」若手を増やす 現代アーティスト・椿昇の挑戦

AFKの会場の1つ、京都府京都文化博物館 別館で


また、作品の売買は普通ギャラリーが仲介して行うものですが、AFKでは直接販売する。学生も出展するし、教授陣やすでに活躍している有名な作家たち、そして一般公募のアーティストたちなど、いろいろな作家が出品しています。

ベテランか若手か、有名か無名かなんて関係なく、同じアーティストとしてみんなが同じ土俵に立つ。展示の仕方も、誰も特別扱いなんかされません。ギャラリーが企画する展示会では、こういう人気作家のとなりに学生の作品が並ぶようなフラットな展示はほとんどない。直販だからできることなんです。

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椿昇氏

──出品される作品の特徴は?

僕たちが紹介するアーティストの作品は「若描き」が多いんですよ。若い時にしか描けない、つくれないもの。将来ビックネームになるかもしれない子たちの青青時代の塊です。稚拙なところところもあるかもしれないけど、若いからこそのエネルギーや苦悩が溢れていて、僕から見れば「欲しい」となってしまうものばかり。

もちろん買いに来る人も自由で、初めてアートを買おうという人も多く、素直な目線で自分が気に入ったものを選んで買っていってくれる。全体がフレッシュな感じですね。若い起業家の方も現代アートに興味を持つ人が多いです。

僕は、優れたアーティストの条件って、人柄ではないかと思っているんです。それは良い人とか悪い人とかいう意味ではなくて、作品に対して誠実かどうか。普段は悪人でもだらしなくてもなんでもいいんですけど、作品と向き合ったときにだけ「超誠実」であることが重要です。

そうでなかったら、やっぱり神様は降りてこないんですよ。アーティストって、長い時間の試行錯誤と絶望の果てに、「これだ!」というアイデアが突然閃くことがあるんです。科学者が10年も20年も研究し続けて、ある日の明け方になって突然計算式が降りてくるような感じというか。タフな時間を積み重ねる資質があるかどうか。これがあれば、将来伸びてきます。

逆に残念だなと思うのは、まだ若い作家なのに「こんなのじじいになってからでも描けるじゃないか」という作品を観たときですね。観ていると悲しくなってくる展示会があるんですよ。それは上手いとか下手とかではなくて、時代の苦悩に向き合っていない作品だということ。彼ら自身が問題というよりも、美術教師や教える側の指導でつまらなくしてしまっている場合が多いですね。若くて才能ある学生が、小手先の様式にとらわれて埋もれていくのは切ないことだと思っています。

──アーティストはギャラリーと付き合いがなければ売れにくいという、これまでのセオリーに対抗してつくったのがAFKの直販システムなのでしょうか?

奪うとか戦うとかじゃなくて、すべては常に変化し循環していくもの。僕たちがやっていることは既存の産業を奪うことではありません。と同時に、ギャラリーというシステムも恒久的なものではないと僕は思っています。仕組みとは常に流動的であり、時代も業界も変容していくものだから。
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構成=高松孟晋 写真=神谷拓範 編集=松崎美和子

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