経済・社会

2021.05.28 12:30

ひっ迫する日本の医療体制、五輪開催への脅威ではないのか

Getty Images

新型コロナウイルス感染者の増加が続く日本では、7月末に開幕予定の東京五輪・パラリンピックについて、国民の大半が延期または中止を望んでいる。また、米国疾病対策センター(CDC)は日本の感染状況を理由に、渡航に関する警戒レベルを最も厳しい「中止を勧告」に引き上げたところだ。

それでもなお、昨年一度開催を延期している日本政府は、今年7月23日から8月初めにかけて予定されている大会を何としても実施するつもりのようだ。国際オリンピック委員会(IOC)もまた、再度延期の可能性を否定。大会は「安心・安全な環境」と考えられる状況で、開催できるとしている。

大会期間中、選手たちは東京湾に面した選手村に隔離され、練習・試合の会場との間を行き来する以外の移動は認められないという。また、感染リスクをさらに低減させるため、大会を観客ゼロで開催することも検討されている。

出場する選手たちにワクチン接種が義務付けられているわけではないが、すでに多くは接種を受けており、開幕予定日までには、80%が接種を済ませていることになるとみられている。

収入のおよそ75%をテレビ放映権料から得ているIOCにとって、大会の開催には大きな利害が絡む。また、日本政府はすでに、大会に使用する会場の建設や改修を含め、世界最大のスポーツイベントの開催のために、少なくとも150億ドル(約1兆6400億円)を費やしている。つまり、日本政府とIOCの考えでは、大会はどうしても予定通り行わなければならないのだろう。

だが、日本の新型コロナウイルス危機の状況は深刻化しており、収束する気配はない。東京五輪・パラリンピックにとっても、これは深刻な脅威のはずだ。

日本の現状


日本を襲った感染の第4波のひとつの要因は、より感染力の強い英国型の変異株(B.1.1.7)だ。そしてもうひとつの要因が、ワクチン接種に関する惨憺たる状況だ。

ようやく上昇し始めたものの、接種率は豊かな先進国の中で最も低い。少なくとも1回の接種を受けた人の割合は、わずか6%程度。接種を完了した人は、約2%にとどまっている。

ワクチン接種に関する日本の現状が意味するのは、この国に住む人の大部分が、新型コロナウイルスに感染する可能性が高い状態にあるということだ。

日本で2番目に大きな都市、大阪府では感染者の急増により、医療体制がひっ迫。集中治療室(ICU)のベッドも人工呼吸器も不足する中、医師や看護師らは、医療崩壊につながりかねない状況だと訴えている。そして、医療従事者も病院の管理者側も政府に対し、五輪・パラリンピックの中止を求めている。

医療関係者らは、日本が英国型の変異株の侵入を阻止できなかったことを指摘。大会はさらに、インド型の変異株(B.1.617)をはじめその他の「懸念される変異株」の侵入を招くことになりうると危惧している。インド型への感染者はすでに確認されており、クラスター(感染者集団)も発生している。

また、東京では5月17日、会員数およそ6000人の東京保険医協会(かかりつけ医の団体)が菅義偉首相に宛て、大会の中止を求める意見書を送った。

医師たちの不安をさらに高めることになったのは、五輪・パラリンピックのために日本に入国する約1万5000人の選手たち、それぞれ数千人のコーチやスタッフ、そしてメディア関係者がいずれも、現在入国するすべての人に求められている14日間の待機(自主隔離)を免除されることかもしれない。

編集=木内涼子

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事