経済・社会

2021.05.31 12:30

発出・解除を繰り返す緊急事態宣言「1年間何をしていたのか」

政府は4月23日、3度目の緊急事態宣言(4月25日~5月11日)の発出を決定した。翌日の『日本経済新聞』朝刊に、「1年間何をしていたのか」という刺激的な題名のコラムが掲載された。欧米に比べて感染者数が少ないにもかかわらず、医療崩壊がおきつつあることへの不満を、政府、自治体、医師会へ、ぶつけたものだ。「1年間何をしていたのか」というもやもやとした疑問は国民に広く共有されている。

なぜ、ワクチン接種率が先進国最低なのか。なぜ、緊急事態宣言が何回も必要になるのか。なぜ、水際対策は失敗を続けているのか。そして、オリンピック・パラリンピック(以下、オリパラ)を開催すべきなのか。

日米のワクチン接種事情の違いについては、先月、先々月の本コラムで書いたので繰り返さないが、一言だけ付け加えると、新型コロナウイルスの10万人あたりの感染者数は、欧米印ブラジルなどに比べると、日本は非常に低い。そもそもこのような状況で、欧米並みの科学的な治験はできない。日本国内での臨床試験の要求は、接種開始を数カ月遅らせただけだ。

さらに、いよいよワクチンが国内に入ってきても、接種する医師、看護師が不足している。問題解決のためには、接種できる資格の範囲を広げる必要がある。米国のように薬剤師が接種できるようにする、あるいは、潜在看護師(全国で70万人といわれている)を自治体が直接臨時雇用することも考えるべきだ。現在、政府の方針は、既存の医療機関に接種会場への医師・看護師の派遣を要請することだが、通常診療に悪影響がでる、と批判されている。

今回の緊急事態宣言では、飲食店に時短営業、酒類提供の自粛、カラオケ自粛を要請、さらにイベントを無観客にする、大規模商業施設の休業を要請している。不要不急の外出の自粛については、昨年の緊急事態宣言に比べると、効果は見られない。

これまでマスク着用、手指消毒、3密回避など感染対策をしてきて問題なかったので、外出、買い物、ランチ程度はリスクが低いと判断をしている人が多い。また、多くの会社も出勤者割合の減少(テレワーク推奨)に、前々回ほど真剣に取り組んでいない。多くの人が外出しているのを見て、自分だけ自粛することはない、という同調意識も働いている。

強制力のない自粛要請に従うのは、ほかの人が従っているから、という社会規律で、いったん抜け駆けが始まるともろくも自壊する。強制力や罰金のない自粛要請では、限界が見えてきた。
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文=伊藤隆敏

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