ウッドショック禍、日本の林業が「国産材増産」に踏み切れない理由

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木材自給率は年々増加も、建築用は低迷


さらに厄介なのは、木材の質である。ここ20年ほど日本の木材自給率は伸び続けていて、2割を切った状態から37.8%(2019年)まで上がった。木材生産量が増えたのだから建築現場でも国産材が多く使われるように思うが、増えたのは価格の安い合板とバイオマス発電燃料用の木材。輸出するのも土木や梱包材向きの低品質材だ。

建築用製材向きの木材はたいして増えていない。長引く不況で森林の手入れを怠り、その量を減らした。また日本の住宅着工件数は年々減少していたこともあり、必要性が落ちていた。

スギの木
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それに国産材、とくにスギ材は米材や欧州材に比べて強度が弱く、横架材(梁や土台)には向かない。使おうとすれば太くする必要があるので設計を変更しなければならない。

日本の林業界、チャンスをモノにできるか


政府はこのところ「国産材を使おう」とキャンペーンを行っていた。林業を活性化するとともに、木材利用はCO2排出の削減に役立つと強調してきた。そのため補助金を大盤振る舞いし、政策でも後押ししている。公共事業で木材を優先的に使うよう促す、公共建築物等木材利用促進法もあるほどだ。

ところが今回のように木材不足に陥ったとき、国産材の供給が十分でなければ、日本の林業界は信用を落とすだろう。ウッドショックが終わってから再び「国産材をもっと使おう」と旗を振っても建築業界は白けてしまう。

日本の林業界にとっては、何十年ぶりかの木材価格の高騰というチャンスにもかかわらず、対応次第では、逆にピンチに陥るかもしれない。

ウッドショックはこの低金利政策が続く限り収まらないという見方もある。一方で、各国、そして日本も少しずつ増産した木材が市場に出てくれば、一気に鎮静化する可能性もある。

安定供給は、どんな業界でもビジネスの基本だ。林業界は、目先の価格の上下に引きずられて右往左往するのではなく、構造的な改革を行わねば未来はないだろう。

田中淳夫(たなかあつお)◎森林ジャーナリスト。森から見た日本、そして世界をテーマに、自然科学分野だけでなく、林業や歴史、田舎暮らしなど社会問題まで幅広く扱う。著作は『森と日本人の1500年』『割り箸はもったいない?』『ゴ ルフ場は自然がいっぱい』『樹木葬という選択』『森は怪しいワンダーランド』 『絶望の林業』『獣害列島』など多数。

文=田中淳夫 編集=露原直人

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