昔から路地は好きだった。バックパッカー時代、タイのある田舎町の路地を歩いていたら、なぜか外でフライパンを振っていた高齢の女性と目が合い、そのまま食事をご馳走になったこともある。スマートフォンが普及していない時代だったこともあり、特にインドでは迷子になることも多かったが、きらびやかに彩られた観光客向けの施設よりも、路地で感じる生活者の息遣いに魅力を感じた。
「ヘム」で出会った店のポジショニング
町の中心部などヘムはどこにでもある=2018年10月
ある日もヘムを歩いていると、小屋風の店舗が現れた。薄暗い店内に足を踏み入れると、果実酒が棚に整然と並んでいる。バナナにスターフルーツ、オレンジ、ココナッツ。味が想像できないものも多い。しげしげと眺めていると、店主の男性が「飲んでみるかい?」と話しかけてきた。ショットグラスでなめてみる。度数が高いものの、果実がしっかりと漬け込んであり、ちびちびやるのにもってこいである。
ヘムで見つけた果実酒専門店=2018年10月
「果実酒の魅力を伝えたいんだ」。カナダから移住して店を開いたという男性は、果実酒を通して顧客を喜ばせたいという思いを語ってくれた。その説明を聞いて、こう思った。ちょうどいいポジショニングだな、と。
下図は、筆者が作成した、ターゲティングの概念図である。近年、ニッチ戦略が注目を集めているが、極端にニッチな戦略では戦えないことを伝えるために作った。
適度にニッチな情報はターゲットに届きやすい(筆者作成)
ターゲットを広げると、パイ(市場規模)は大きくなるが、ベクトルは小さくなる。つまり、ターゲットを広げれば広げるほど、情報を届ける力が弱くなり(情報が埋没し)、ターゲットに届きにくくなる。
ニッチな分野で戦えば、敵が少ないためビジネス的に成功しやすいとされる。では、ターゲットを極端に狭める戦略を採用してみよう。マニアックな、尖った情報は届きやすいはずだ。しかし、あまりにもマニアックな情報では、辺が重なり、ベクトルが消失してしまう(図の右)。これでは誰にも情報が届かない。