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2021.05.27

夫婦で月給9万円、2度の倒産危機──諦めを知らない男は逆説の在庫管理システムで奇跡を呼ぶ

信用保証協会(経営者の代わりに金融機関に連帯保証する公的機関)審査官の男性が声を上げて泣いている。

2013年2月、食器EC会社でのことだ。向かいに座る社長の瀬川直寛も嗚咽を漏らしている。前年5月に資本金615万円で起業したものの、10カ月で資金は残り200万円まで激減。

夫婦で9万円の月給では生活も苦しく、夫婦喧嘩が絶えない。「倒産」の2文字が瀬川の頭をよぎる。

2人の男泣きには理由があった。EC利用客からのレビューコメントだ。審査官は型通りの質問を終えた後、瀬川にこう問いかけた。

「社長、会社を作って良かったですか?」

瀬川はレビューページを見せながら答えた。

「もちろん良かったですよ。だってこんなにお客さんから喜ばれる仕事ができてるんですから」

志とは裏腹に売上は低迷し、615万円あった資金は400万円超が消えていた。新婚早々に起業した結果がこんなことになり、妻にも申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

そんな瀬川を支えていたのがレビューだった。

「毎日心が折れそうになるんですけど、そんな時はいつもこのレビューを見て気持ちを奮い立たせてるんです。自分はこうして人に喜んでもらえる生き方がしたいから会社を作ったんだ、と。本当に今苦しいですけど、それでも起業して良かったと思ってます」

ずっと心の内にしまっていた苦しさが溢れ出たのか、瀬川の目からは涙がこぼれ落ちていた。

実は審査官も来社前にレビューを読み、「利用客から喜ばれている」と感銘を受けていたのだ。瀬川の話を聞きながら「こんなに実直な社長さんは久しぶりに見ました」と言って泣いた。声を上げて泣いた。

何とか涙を拭った審査官は「(保証希望の)満額を通せるよう頑張ります」と言い残して事務所を出たのだった。

審査結果は満額。瀬川はこの融資で息を吹き返し、事業は急成長。そして勢いに乗ってベビー服ECに参入した。しかし、ここからが本当の苦難の始まりだった。

減り続ける預金残高、まさに崖っぷち。だが「絶対に」諦めない


ベビー服ECはあれよあれよという間に会員数が増え、売上も毎月増える中で、さらなる成長を求めて取扱商品数を増やした。狙い通り売上は急拡大したが、瀬川はしばらくして異変に気付く。

「利益はこんなに出てるのに現金はどんどん減っていく。なんでや?」

預金残高とは対照的に倉庫にしている自宅の一室は在庫の山。仏間にまで段ボール箱があふれ返る始末で、妻と幼い長女の3人で在庫と在庫の間で寝るような状況だった。

「とにかく在庫をお金に換えなあかん」

そう考えた瀬川は、初めて不良在庫をセールすることにした。しかし、どの商品がセールの対象とすべき不良在庫なのかが分からない。思案している間も現金は無情に減り続け、焦りが募った。

とうとう、2カ月後には従業員の給与を払えなくなるところまで資金繰りが追い込まれる。

正月休み、瀬川は食卓で3歳の長女に「パパがいつも忙しいからお正月なのにどこにも行かれへんくて、ごめんな」と語りかけた。

妻が定期預金を崩して会社にお金を入れるなど、家計に余裕がないのが本当の理由だったが、父親として、夫として子供にそんなことは言えなかった。しかし......

「パパは誰よりもお仕事頑張ってるやん! 無理せんでいいで」

長女の屈託のない一言で、瀬川の涙腺は決壊した。それくらい苦しかった。そんな時、瀬川は起業した理由を思い出した。

「しんどいという理由で事業をやめるなら、会社なんて作ったらあかんやん。絶対に諦めるな。俺は絶対に勝つ」と何度も自分に言い聞かせた。

瀬川は目の前の在庫の山と向き合った。

やがて、目星を付けて売っていくうちに光明を見出す。

在庫が多い商品でも、日々コンスタントに売れているのなら不良在庫とはいえない。逆に1つしか残っていなくても、全く売れていないのなら不良在庫かもしれない。

そんな疑問がヒントになった。不良在庫を見極めるシステムを作り上げ、セールで現金を取り戻した。倒産危機は脱した。

「これでもう会社はつぶれへん」不良在庫をお金に換える力を付けたことに瀬川は自信を深めた。しかし、小売業は甘くなかった。

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またも土俵際。たどり着いたのは、常識とは真逆のシステム


その後もわずか1年余りの間に、過剰仕入れや価格戦略の失敗で2度も倒産危機に直面したのだ。

当然ながら、社内の雰囲気は悪くなる。普段から瀬川を良く思っていなかった社員が同僚を扇動し、讒言が横行して会社が内部崩壊しそうになったことも。長く働いてくれた従業員でさえも嫌気が差して辞めていった。

そんな状態なので、仕入れ担当だった妻との喧嘩も絶えない。クールダウンするためにほぼ毎夜、夫婦で公園を散歩した時期もあったほどだ。

「来年どうなってるか分からへん人生は楽しいで。会社員の時は3年後、5年後もどうせ同じことしてるって分かりきってたやん。そんな人生はつまらんし退屈やわ」

妻はベンチの隣に座る瀬川に語りかけた。毎日喧嘩していても、やはり夫婦。人生の伴侶からの励ましに瀬川は何度も勇気づけられた。もう1つ、常に心を支えていたのは、お客様からのレビューだった。瀬川には忘れられない1通のレビューがある。

「お腹の赤ちゃんが女の子と分かり、生まれたら着せてあげようと決めて買った服を本当に着せることができました。この子を大切に育てよう、と心から思いました」

レビューは3カ月おきにメーカーにも共有した。少しでも良い商品を作ってほしかったからだ。それくらい「人の役に立つ仕事」に本気だった。

瀬川は何枚も何枚もグラフを書き直して考え抜き、ついには在庫問題の本質的原因にたどり着く。そして解決策をシステム化していった。その甲斐あって、合計3度の倒産危機を全て乗り切った。

苦労してたどり着いた在庫問題の解決策は、それまで小売業で常識とされていた考え方とはほぼ正反対の考え方だった。これには瀬川も心底驚いた。

一方で、3度の倒産危機を乗り越える過程で開発したシステムであるからこそ、今後はEC事業を安定して継続できると考えていた。「人の役に立っている」と実感できるECをずっと続けられる、と。

実際、在庫回転数は17回転を超えるまでになり、在庫で悩むことはなくなった。

ところが、瀬川の妻は違った。

「在庫は小売業の社長ならみんな悩んでる。本当に人の役に立ちたいのなら、このシステムを他の会社にも使ってもらうべきやで」と外販を強く主張したのだ。

妻は取引先と仕入れや在庫の苦労話をよくしていて、システムについて説明すると「それ欲しい! 絶対に売った方がいいですよ」と言われていたのだ。

しかし瀬川は渋った。売り手都合がまかり通るBtoBの世界に嫌気が差したのも、BtoCで起業した理由だったからだ。

それでも妻は諦めなかった。

「在庫の悩みを解決できることは、自分の会社で実証済みやんか。こんなに人の役に立ちたいと思って歯を食いしばって頑張ってきたのに、なんで自分の倒産危機を3度も救ったこのシステムが世の中の役に立つと思われへんの?」

ともに苦境を乗り越えてきた妻は、ベビー服EC独特の事務系業務に時間を取られる瀬川を見て歯がゆさを感じていたようだ。

「相手の課題を見つけて解決する夫の能力は、BtoBの世界でこそ発揮されるべきや」

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今は自らリスクを取りに行く。世界中の人の役に立つために


背中を押された瀬川は2017年の年明け、システムの販売に会社の舵を切る決断をしたのだった。これがフルカイテン株式会社が提供するクラウドサービス、FULL KAITENの始まりだ。

その後、瀬川はコネもゆかりもないベンチャーキャピタルへ飛び込んでいった。事業計画を一から説明し、半年後には最初の資金調達(増資)を実現。さらには上場企業との間でEC事業のM&Aを成功させ、経営資源をFULL KAITENへ集中させた。

それまであった売上がゼロになるのだから、瀬川は不安だった。次女を授かったという事情もある。

しかし、3度の倒産危機を乗り越えた経験と家族への厚い信頼から来る自信が不安を上回った。「何が起きても絶対に乗り越えられる」と。

FULL KAITENは現在、大手アパレルやメーカー、楽天市場ショップオブザイヤー受賞店舗など、実店舗・EC両方に利用が広がっている。そして、ユーザー企業から寄せられる「FULL KAITENを使って本当に良かった」という声が、瀬川とフルカイテンを支えている。

「在庫で悩む社長さんたちの役に立ちたい」

当初はそれだけの気持ちでスタートしたFULL KAITEN事業だったが、営業先の大手企業の役員の言葉が、瀬川とフルカイテンの転機になった。

「FULL KAITENが広まっていろんな企業が在庫問題を解決していけば、世界中で今までのような商品廃棄が減らせるんじゃないかな。そうなったら資源の無駄遣いも減らせる。瀬川さん、FULL KAITENにはそんな可能性がありますよ」

瀬川の視座が一気に上がった瞬間だった。

「世界の大量廃棄問題を解決する」というミッション。

これこそが究極の「人の役に立つ」事業だと確信している。子供たちや将来生まれる孫たちの世代に今より良い地球を残す。瀬川が会社のメンバーたちとともに見詰める先には、そんな未来がある。

フルカイテン

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