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13社のIPO実績があり、それらの時価総額は1兆5000億円以上——。産学連携を含むサイエンス・テクノロジー領域のVCとして圧倒的な実績を挙げてきたUTEC(東京大学エッジキャピタルパートナーズ)が、この分野では国内最大規模となる5号ファンド設立を発表した。

また、これまで以上に迅速な支援をシードステージのスタートアップに実施する「UTEC Founders Program」の開設も同時に発表。投資活動を急加速させる背景に、どんな思いがあるのだろうか。


創業早期、創業前からの支援をスケールアップしたい


「これまで以上にダイナミックな事業を効率的に生み出し、より早くから事業の成功を後押しするためです」

5号ファンド設立の狙いをそう明かしたのは、UTEC代表取締役社長/マネージングパートナーの郷治友孝だ。UTECは2004年の創業以来、110社以上のスタートアップに投資を実行してきた。シード/アーリー段階から一貫したハンズオン支援を行い、レイターステージの大型ファイナンスまでカバーしてきた結果、2020年12月末現在で13社がIPOを、12社がM&Aに成功している。

そのラインアップも凄まじい。東証一部上場のバイオベンチャー、ペプチドリームを筆頭に、AI-OCRでトップシェアを誇るAI inside(東証マザーズ)、画像解析AIソリューションのニューラルポケット(東証マザーズ)、質量分析計の小型携帯化を実現した908 Devices(米NASDAQ)、ドローン・ソリューション開発の自律制御システム研究所(ACSL、東証マザーズ)など、イノベーションの旗手と呼ぶにふさわしい企業が顔を揃える。

まさに、UTECがビジョンに掲げる「世界・人類の課題を解決するためのフロンティアを開拓」するエコシステムが確立できているように見えるが、なぜ郷治は冒頭のコメントを発したのだろうか。その背景にあるのは、サイエンス・テクノロジー系の事業がもつ構造的な課題だ。

「そもそも、ライフサイエンスやフィジカルサイエンスの分野は、資金や人的リソースの問題がありますので、スタートアップで取り組むのは決して簡単ではありません。だからこそUTECでは、資金のみならずマネジメントのサポートにも力を入れてきました。それでも、事業が形になるまでには7~8年から10年くらいかかってきました。チームビルディングも含めた支援を創業早期や創業前の優れたアイデアの段階で行い、迅速なスケールアップのために十分な資金を供給することで、より早く大きな成果を出せると考えたのも、5号ファンド設立を決めた理由です」


UTEC 代表取締役社長/マネージングパートナー 郷治友孝

コロナ禍でも投資を加速! 前年比140%を達成


スピードアップが必要だと郷治が考えるのは、日本が抱えている課題と無関係ではないだろう。高齢者人口の割合は世界でも突出して高い一方で、GDPは急速に低下。世界経済において日本のプレゼンスは失われつつある。サイエンス・テクノロジー領域でもその傾向は顕著で、論文発表数や引用件数は激減。直近でも、新型コロナウイルスのワクチン開発において、世界のスピードにまったくついていけていない。科学力の底上げを図るためにも、サイエンス・テクノロジー領域へ早急に大型の投資を行う必要があるのだ。

「幸い、日本の対外純資産はこの30年間トップを維持しており、個人金融資産も米中に次いで世界3位です。また、東証マザーズは流動性および時価総額で香港GEM市場やシンガポールCatalist市場に大きく優っており、世界的に見てもベンチャー企業にとって有利なマーケットがあります。こうした環境下で、積極的な投資活動を展開することは、グローバルでも大きなインパクトを創出できると確信しています」

郷治が分析するように、いち早く投資トレンドを読み切ったUTECは、コロナ禍を受けて2020年の投資を加速。18年1月に設立したUTEC4号ファンドの20年通年での投資実行額は54億円となり、前年比140%をマークした。他のVCやCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)がコロナ禍直後の投資額を減らした(※)のとは正反対の判断だが、ふたを開けてみると、20年にIPOした企業数は日本も世界も前年を上回り、M&Aもグローバルで見ると第3四半期以降は復調している。いかにUTECが時代の動きを正確に読み切り、的確なアクションを実行するかが証明された形となった。

※デロイトトーマツ ベンチャーサポートの調べによれば、2020年の前半はベンチャーキャピタルの75%、コーポレートベンチャーキャピタルの90%が前年より投資額を減らす意向を表明している。

シーズの質を見極める緻密なディールソーシング


UTECが的確にトレンドを読み切り、着実な成功実績を積み上げてきたのは、「勘と経験」だけによるものではない。緻密な情報収集と分析、緊密なネットワークの形成を繰り返してきた結果だ。そうでなければ、「ディールソーシング(投資先探し)の8割以上が起業前。技術のシーズ段階からリードインベスターとして取り組んでいる」(郷治)という状況は実現できない。逆に言えば、シーズ段階で“モノになる”と見極めることにより、UTECは大きなリターンも獲得してきたとも言えるが、具体的にどのようなディールソーシングをしているのか。郷治はこう明かす。

「まず、東京大学に独自のディールソースを確保しています。同大学の知的財産部経由で学内の発明届を閲覧しているほか、東大産学協創推進本部のスタートアップ推進部とはアントレプレナー教育やスタートアップ支援プログラムで密接に連携しています。また、同大学の発明と企業をつなぐ『東京大学TLO』や、同大学のイノベーションエコシステムの拡大を目指す『東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)』とは定例ミーティングを行い、ベンチャー設立の観点で有望な案件の紹介を受けるなど、早期にシーズ情報を得られる体制を整えています」

もちろん、東京大学以外にも国内外の大学や研究機関と幅広く連携。さらに、特定の研究室の技術に立脚するベンチャーを育てるだけでなく、さまざまな大学等の技術やアイデアを組み合わせることで事業としてのレジリエンスを強化するアプローチも、UTECの得意とするところだ。千葉大学名誉教授の野波健蔵が起業した前出の自律制御システム研究所(ACSL)や、北海道大学発ベンチャーでがんを「見える化」する薬の開発をしている五稜化薬はその代表例。大学の枠や地域を飛び越えて複数のアカデミア、民間企業が連携するスタートアップを数多く生み出している。

こうした実績が、事業化を目指す起業家・科学者・技術者から注目されるのは当然のことだ。アカデミアの世界での信頼度は高まるばかりで、最先端の研究を進めている研究者からの問い合わせも急増。UTECをハブとして産学官の生きた情報が活発に交換され、シーズが次々に生まれるイノベーションエコシステムが構築されているのだ。

加えて、データサイエンスの手法を取り入れて有望な研究分野や研究者を割り出し、起業を促す能動的なアプローチも本格的に実施しているという。実は、そのために郷治は自ら大学院に入学してデータサイエンスを研究し、20年には博士(工学)の学位も取得。その研究成果をUTECのディールソーシングとデューデリジェンスに実装し、すでにいくつかの投資候補先が絞り込まれているというから、今後UTECが見出したシーズにはより注目が集まること必至だろう。

最大1億円! シーズを迅速支援するUFPとは


シーズを見逃さず、最短距離で花を咲かせる支援をハンズオンで――。UTECがそうした姿勢を貫くベンチャーキャピタルであるということを、改めて強く打ち出したのが、5号ファンド設立と同時に発表したスタートアップ事業化支援プログラム「UTEC Founders Program(UFP)」だ。同プログラムをリードするUTECのプリンシパル、小林宏彰はその内容について次のように話す。

「これまでもUTECでは、シーズの育成に力を入れてきました。東京大学のアントレプレナー道場や、『UTEC東京大学未来社会協創基金』による基礎研究への助成プログラム、起業準備中の方の事業化支援を行うEntrepreneur In Residence制度などがそうです。5号ファンド設立をきっかけに、より広範な層のスタートアップへ迅速な支援を実現したいと考え、新たにUFPを開設しました」


UTEC プリンシパル 小林宏彰

より幅広いステージの事業を志向していることは、UFPが2つのトラックで構成されているところにも表れている。1つは、創業直後からプレシリーズA前後のスタートアップを対象に最大1億円を投資する「Equity Track」。そしてもう1つは、創業直後だけでなく創業前のチームも対象に、最長1年間の事業化支援と最大1,000万円の事業化支援資金を提供する「Grant Track」。また、事業化支援資金は返済不要で、テストマーケティングやプロトタイプ制作、実験データ採取などフレキシブルに活用できるのも魅力だ。

「創業前や創業直後は、資金調達にどうしても時間をとられてしまうものです。その時間を極力減らし、事業の立ち上げに専念いただくため両トラックとも迅速に運用します。ご応募の数にもよりますが、意思決定の期間は1カ月以内を想定しています」

さらに、“最短距離で花を咲かせる”ための側面支援も充実させている。もともとUTECは、「大学発ベンチャーでよくある課題は『経営者がいないこと』」(郷治)という認識のもと、経営人材のマッチングやマネジメントチームの構築支援に力を注いできたが、そのノウハウをフル活用。メンタリングやHRサポート、専門家による勉強会やネットワーキングなども提供する。

また、「Grant Track」で補助金の支援を受けた場合であっても、その後に両者で合意すれば、「Equity Track」や通常のUTEC投資を受けることもできるという。つまり、5号ファンドのポートフォリオがいままで以上に多様化し、魅力を増す可能性があるということだ。

ただでさえVCのポートフォリオは注目を集めているが、サイエンス・テクノロジー領域に特化し世界のアカデミアと連携するUTECへの注目度はひときわ高い。意外と知られていないが、UTECがイグジットしたM&AのなかにはGoogleやバイドゥといった米中の代表的IT企業が買収したベンチャーもある。

また、米国のARCH Venture Partners、インドのBlume Ventures、英国のAmadeus Venturesなど海外の主要ベンチャーキャピタルとの連携実績も着々と積み上げている。5号ファンドのポートフォリオの多様化が進むことで、この傾向がさらに加速することは容易に想像できよう。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックのように、世界で誰もが正確に予測できなかった事態が次々に起こるいま、サイエンス・テクノロジー領域のイノベーションは、決して大げさではなく全人類の課題解決につながっていく。5号ファンドの設立とUFP開設のニュースは、そのムーブメントの先鞭をつけ、イノベーションのエコシステムを活性化させていくというUTECの覚悟を宣言したものなのではないか。

UTEC
https://www.ut-ec.co.jp

UTEC Founders Program(UFP)公式サイト
https://ufp.jp


ごうじ・ともたか◎2004年UTEC共同創業以来、5本の投資事業有限責任組合(計約850億円)の設立・運営、東京大学発をはじめとする科学・技術系スタートアップへのシード/アーリーからの投資育成戦略の遂行、UTECのチームビルディングや国内外の大学・研究機関との関係構築を行ってきた。前職の経済産業省にて『投資事業有限責任組合法』を起草し、文化庁出向、金融庁出向を経て、UTEC設立に当たり退官。東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、東京大学博士(工学)。日本ベンチャーキャピタル協会常務理事。

こばやし・ひろあき◎東京大学医学部卒業。東京大学附属病院等での救急集中治療の臨床業務に従事。救急専門医取得。2014年に創業期の医療機器スタートアップに参画し国内外での事業立ち上げを推進。2018年に米国ミシガン大学経営学修士(MBA)を取得後、2019年UTECに参画しライフサイエンス・ヘルスケア・IT領域の投資を担当。

Promoted by UTEC / text by 高橋秀和 / edit by 高城昭夫

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