この時2人が設定した目標額は1万8000ドル。事業を軌道に乗せるために最低限必要な額だった。しかし、スタートから30日間で、日本の東京からロシアのモスクワまで、世界各地に住む1400人がバッカー(支援者)となり、最終的には25万6000ドルもの資金を集めることに成功した。
当時、2人が支援のリワード(返礼品)として用意していた製品はたった1つ。工具を使うことなくあらゆる板をテーブルに変身させられる、調節可能なテーブルの脚だった。
それから6年がたち、2人の会社フロイド(Floyd)は、製品ラインアップを拡張し、モジュラー式のソファから、パネル式で幅の調整が可能なベッドフレームまで、機能的な家具を幅広く取りそろえるようになった。そして4月21日、ミシガン州デトロイトに本拠を置くフロイドは、シリーズBラウンドで1500万ドルを調達したと発表した。
今回の資金調達ラウンドは、ウォールデン・ベンチャーキャピタル(Walden Venture Capital)が主導し、ベリンギア(Beringea)、La-Z-Boy、14w、JPモルガン・チェースも参加した。これで、フロイドがこれまでに調達した資金の総額は2500万ドルに達した。
現在30歳になったオデルは、「フロイドは製品第一主義の企業だ。デザイン主導の方針を貫いている」と語る。同社の共同創業者にして最高執行責任者(COO)の職にあるオデルは、フォーブスの2020年版「30アンダー30」リスト(小売、Eコマース部門)入りも果たしている。「我々は、この市場で競争に勝ち抜いていくために、この戦略を選んだ。顧客が当社を選ぶのは、質が高く、他と一線を画す美しいデザインを評価してくれるからだ」
フロイドは、販路を自社のEコマースサイトに限定し、手ごろな価格設定で提供している。一例を挙げると、同社のソファは1495~2095ドルという価格帯で販売されている。これは、イケアの同一カテゴリーの製品と比べるとやや高いが、Crate & Barrelよりは安いという価格帯だ。
フロイドの売上高は2020年、前年比115%という大幅な伸びを見せた。同社はこの1年、マーケティングにかなりの投資を行ってきたとはいえ、2020年の売上増には、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、自宅生活の大切さが大きくクローズアップされたことが貢献した可能性が高い。
同社の規模はこの1年間で拡大し、従業員数は前年比で2倍の60人にまで増えた。だが、創業者の2人が見据える目標は変わらない。一人暮らしのワンルームから、家族と暮らす住宅まで、ライフスタイルに合わせて長く使える、サステナブルで耐久性が高く、美しい家具を作ることだ。
「我々は、いつまでも使える製品を作りたいと考えている」とオデルは語る。「この世界に存在するモノを、できるだけ生かすことが何より大切だ」
オデルとホフは2013年、デトロイトで都市空間再生事業を手がけるインキュベーターを開設する委員会のメンバー同士として出会った。この委員会の活動に関わるうちに、2人は廃棄される家具を減らしたいという強い思いで意気投合し、のちにフロイドの第1号製品となるアイデアを思いついた。それが、どんな板にも取り付けられるテーブルの脚だった。