入管問題で見落とされる、日本の「落ち度」 スリランカ人女性はなぜ救われなかったか

名古屋入管で収容中に亡くなったウィシュマさん(左)今回の入管問題で、見落とされがちな重要な視点とは(弁護団提供)


犯罪被害者としての医療ケア、心のケア、弁護士料など、私が受けた支援にかかったであろう経費がどれくらいかかったのかを私は知らないし、一銭も払っていない。犯罪被害者に対しての公的経費の体制があるからだ。

もしあの時、私が外国人だからというだけで、滞在ビザがあってもきちんとした被害者支援が受けられなかったら、確実にいまの私は存在しない。

仮に、当時の私が滞在資格を持っていなかったとしても、ちゃんと支援を受けていただろう。アメリカでは不法滞在者にも犯罪被害者として一連の支援を受ける権利が、1994年に制定された女性に対する暴力阻止法(Violence Against Women Act (VAWA) )で保障されているからだ。

過去にアメリカでも、DV被害で救急病院に運ばれたり、暴力から逃れるために警察に行くことで、被害者であることよりも、不法滞在のことを取りざたされ出入国管理所へ通報されて強制送還される事例があった。それにより、被害に遭っても届けを出さない被害者が増えたことが問題となり、2000年にはThe Battered Immigrant Women Protection Act of 2000(VAWA 2000)、直訳すると「虐待された移民女性の保護法」も導入され、虐待被害に遭った移民を守るよう強化された。

また、犯罪被害者となったビザのない人が取得できる「Uビザ」や、人身売買の被害に遭った人を守る「Tビザ」の発行も可能になった。虐待に遭った子どもの親として滞在が認められるよう申請もできる。2005年の改正では、高齢者の保護も対象になった。

国籍、滞在ステータスを問わず、救済されるべき理由


これらの根底には、国内で起こった暴力、そして自国の人が加害者であるなら特に、その被害者を単に国から放り出すのは、完全な責任放棄であるという考え方がある。

DVや性暴力の被害者に対する日本の政策は、まだまだ明治時代から抜け切れていない。ましてこの国で外国人が被害者となった時、滞在資格を失いたくないがために、加害者の元で我慢して命を危険にさらすか、不法滞在となりお金もなく隠れて生活するかという選択に縛られている人がどれだけいるだろうか。民間が行う支援はあってもあまりにもその数は少なく、コロナ禍にあってそれらの団体も救済のため大忙しだ。

DVや性犯罪を含むあらゆる犯罪の被害者は、国籍、滞在ステータスを問わずに救済されるべきである。加害者が日本人であれば尚のこと、外国人被害者を放置したり、国外追放することで責任逃れをしてはいけない。「美しい日本、おもてなしの国」と冗談抜きで世界にアピールするなら、もっと人権意識を持ったらどうか。

犯罪被害に遭うことと、滞在ステータスは切り離して扱う対策を、ウィシュマさんの死から考え、改善を訴えていきたい。


連載:社会的マイノリティの眼差し
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文=大藪順子

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