経営難が年々悪化を続けているMGMは、売却先を求めてここ数カ月にわたり交渉を続けてきた。ここ数年間で送り出した作品が2つのオスカーといくつかのエミー賞を受賞する成功を収めてきたアマゾンにとってMGM買収は、「007」シリーズを含む約4000本の作品の権利を手に入れ、映画事業をさらに改善するチャンスとなる。実現すれば、アマゾン・プライムの競争力は大きく高まるだろう。
アマゾンは2020年、映画・テレビ・音楽事業に前年比40%増の110億ドル(約1兆2000億円)を投資した。一方でハリウッドの大手製作会社は、新型コロナウイルスの流行と世界各国で講じられたロックダウン(都市封鎖)により打撃を受けた。昨年、1210万ドル(約13億2000万円)の損失を出したMGMは今年第1四半期、売上高は4億300万ドル(約440億円)、利益はわずか2930万ドル(約32億円)だった。
業界の流れは明らかだ。売却先を探しているハリウッドの老舗スタジオはMGMだけではない。1923年創業のワーナー・メディアもまた、ディスカバリーとの合併で合意した。
ネットフリックスやアマゾンの制作力、市場適合力、コスト構造を老舗スタジオと比較してみれば、私たちが時代の変わり目に向かっていることは明らかだ。ハリウッドはヒット作を1年に数本出すのがやっとという状況である一方で、IT大手はドラマや映画のヒットに欠かせない大物俳優・監督を囲い込み、より安定して健全な収入源を提供している。
ここでは明らかにリーダーシップの教訓を読み取れる。アマゾンやネットフリックスのような企業がしていて、ハリウッドの老舗スタジオが全く太刀打ちできないこととは何だろうか?
ハリウッドはテレビが登場した時、映画は映画館で鑑賞するものだと大衆を説得し、ビデオや放映権を再販することで、この危機を切り抜けた。しかし21世紀となった今、エンターテインメントの形は、ノンストップの作品製作と、サブスクリプションを通じた視聴や鑑賞が主流となっている。
アマゾン・プライムは全世界で2億人の会員を抱え、うち1億7500万人が定期的に同社の作品を鑑賞している。ネットフリックスの有料会員数は世界全体で2億800万人に上り、ディズニープラスには1億360万人が登録。今後はこれら3つのビッグプレイヤーが中心となり、いくつかの小規模サービスと共に、映像コンテンツ市場の大半を牛耳るだろう。
映画業界のビジネスモデルは変化しており、旧態依然とした企業のほとんどは新たな環境に馴染めず淘汰されていくだろう。MGMのマスコットであるライオンの「レオ」も、ようやく引退できそうだ。