「スティーブとイーロンは見ている方向が同じだと思いました」と、前出の村瀬は言う。
「二人がトークセッションをしたことがありました。南アフリカなまりで朴訥としゃべるイーロンと、興味の範囲が広く、クリアに整理して話すスティーブ。話し方こそ違いますが、見ているところが同じなのです。そして、イーロンが自分でコツコツやりたがる起業家タイプなら、スティーブが幅広く支援する投資家タイプ。役割がうまくかみ合っていると思いました」
マスクの構想
ジャーベットソンがDFJに入社した1994年に、マスクは将来の構想にたどり着いている。当時、ペンシルベニア大学ウォートン校で物理学と経営学を専攻していた彼は、インターネット、クリーンエネルギー、宇宙開発の3つに取り組むと決意。それが人類の未来に最も影響を与えるテーマだと考えたからだ。のちに宇宙開発はインターネットのビジネスで重要になる。地球上のあらゆるところでのインターネット接続を可能にする通信衛星コンステレーションで、スペースXのスターリンクがまさにそれだ。
また、テスラも自車販売が目的ではなく、電気自動車の普及でクリーンエネルギーの問題に挑戦している。これらの壮大な構想が着実に現実化しているのは、理解者との出会いがあったからにほかならない。
ジャーベットソンと馬が合うだけでなく、長期的な技術の進化を理解し、資金の支援ができる。投資家として高い評価と称賛を得ていくジャーベットソンがマスクに協力すれば、世界の投資がそれに続く。
おまけにマスクは荒唐無稽なストーリーテラーだ。「宇宙開発」とは言わずに「火星への移住」と表現する。多くの優れた起業家が読書家であり、ストーリーを語る素養をもつが、マスクは世界の耳目を集める語り部として突出していた。あらゆる成功は組み合わせであるというビジネスの鉄則が、まさしくマスクとジャーベットソンに符合したのだ。
(Getty Images)
ジャーベットソンはTechCrunchのインタビュー(15年)でマスクについて、「私の元上司だったスティーブ・ジョブズと似た点がある」と語っている。「完璧主義者であることと、グッドリスナーである点です。意外かもしれないけれど、彼はよく人の意見に耳を傾ける。特に技術者の話です。そこから洞察し、みんなとブレストを楽しむのです」。
マスクの影響かは不明だが、彼は自身についてもこう言っている。「これまで私は異なる意見を逸脱者とみなしていましたが、意思決定や投資判断を改善するうえで、異なる意見をもつ人を尊重するようになりました」と。
成功の要因としてパートナーともうひとつ挙げられるのが「環境」だろう。マスクを育てた家族のユニークな環境は自分で選択できるものではないので再現性はないが、テスラ初号機を購入し、マスクの支援者として知られるエンジェル投資家のジェイソン・カラカニスはこう語っている。
「私が出資した会社が倒産しても、『次に起業するなら、また来い』と言っている」
起業家を尊敬し、そして本気で叱咤し、「人間味あふれる男」と彼はいわれる。挑戦し続ける者が尊敬され、支援する者も評価される。このカルチャーなくして可能性は開花しない。世界の才能と資金がシリコンバレーに集まるゆえんである。
ジャーベットソンに影響を与えたドイッチュは『無限の始まり』で、「進歩の始まりとなる科学理論とは、大胆な推量だ」と言い、それは「よい説明」とその探求によって生じると述べている。期待と意思の力こそがそれを可能にするのだ、と。
意思と期待。よい説明と理解する者。つまり、よき同志をもてるか。それが成功の条件なのだ。
スティーブ・ジャーベットソン◎米国の投資家。研究開発エンジニアなどを経て、ベンチャーキャピタル、DFJに参画。初期のホットメールやテスラに投資する。2016年には米フォーブスの技術系トップ投資家に選ばれた。18年にFuture Venturesを共同設立
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