マスクが17歳で親の援助なしに南アフリカからカナダに移民としてわたったのは有名だが、ジャーベットソンの親も移民、いや、亡命者である。彼の親はソ連のバルト三国占領でエストニアから亡命。ジャーベットソンはアリゾナで生まれた。
彼はスタンフォード大学で電気工学を専攻し、2年半で卒業。首席だった。ヒューレット・パッカードの研究開発職を経て、アップル、そしてスティーブ・ジョブズが創業したNeXTで働き、27歳でベンチャーキャピタルに参加。それが後のDFJである。また、32歳のとき、MIT(マサチューセッツ工科大学)の第1回Innovators Under 35(35歳未満のイノベーター)を受賞。そう、天才なのだ。
ジャーベットソンの動向に注目する人は多く、そのひとり、エンジニア出身でシリコンバレーでスタートアップ支援を行うPacific Sky Partners代表・村瀬功は、アマゾンがアレクサを発表したときのことを述懐する。
「アレクサがはやり始めたころ、次のユーザーインターフェイスは音声だと感じた投資家は多いと思うのですが、当時投資家が狙っていた領域の多くはアプリケーションのほうでした。しかしジャーベットソンが投資したMythicというスタートアップは、音声のみならず画像の領域まで扱える低消費電力のAIの半導体の開発をしていた会社。彼の投資スタイルははやりものを追いかけるというものではなく、その根底にある中長期での技術の潮流を俯瞰したうえで、そのティッピングポイントをとらえたより大きなインパクトを与える可能性をもった会社に投資するというスタイルで、さすがだなと思いました」
スティーブ・ジャーベットソン(2017年撮影、Getty Images)
ジャーベットソンは米Forbesの技術系トップ投資家のMidasListに2011年から毎年のように選ばれている。彼は本誌編集部員に一枚のグラフについて言及している。それは「ムーアの法則」をもとに、未来学者レイ・カーツワイルと作成したムーアの法則「110年バージョン」である。
「人類史上最も重要なグラフ」とジャーベットソンが言うムーアの法則は、インテルの創業者ゴードン・ムーアが1965年に発表した「集積回路上のトランジスタ数は2年ごとに倍になる」という進化に関する論文で、それ以来、産業界をけん引してきた。
ジャーベットソンはセミナーなどでも「110年バージョン」のグラフを見せながら、技術は将来的に指数関数的な成長線を見せていくと説明している。
人間の脳や知覚は直線的なものしか感知できないが、技術は複数の異なる要素が融合・統合していくため指数的に成長する。目に見える事象を追いがちな人間は、未来を直線的に最小限の範囲でしか想定できない。だから、実際に起こることが「想定外」に見えてしまう。それを技術の中長期文脈から予測するのがジャーベットソンで、彼は投資というかたちで未来への支援をしているのだ。
例えば、スマホと宇宙開発は別の業界ではない。スマホの登場は半導体の進化であり、宇宙衛星での半導体の役割が増すことを意味する。こうした考えから、ジャーベットソンはDFJで誰もが反対したスペースXに投資。テスラ同様に社外取締役に就任した。研究開発に時間がかかる分野はリスクが高く、投資家は手を出しにくい。そうした分野を投資対象としている。宇宙領域だけでなく、将来のエネルギー問題の解決法としてのナノテクノロジー、あるいはバイオテクノロジーがそうだ。