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2021.05.27

遠山正道x杉田陽平 「所有」ではなく「支援」というアートの楽しみ方(前編)

「The Chain Museum」CEO 遠山正道(左)と現代美術家 杉田陽平(右)


それで言うと、ArtStickerでのアーティスト自らの発信はリアルタイムの「日記」に近いから、リアリティがありますよね。次の個展を控えていかに戦っているかが見えたり、迷いを感じられたりして、それ自体も作品と同じくらい求心力がある。

あと、作品を購入できるだけでなく、最低120円から支援ができるのも素晴らしい仕組みだと思いました。

遠山:ありがとうございます。4年前かな、スイスの「アート・バーゼル」(1970年スタート、スイス北西部の都市バーゼルで毎年開催されている世界最大規模のアートフェア)に行ったとき、作品が2億円以上で、「買えないし」って思ったのね(笑)。

もちろん、そういうトップオブトップの世界がアート市場を牽引し、人々の憧れにもなりうるんだけど、音楽で言えばむしろインディーズやオルタナティブの方が面白かったりするじゃない? それで、オルタナティブなアート作家が世界と直接繋がるようなプラットフォームを、高速道路を通すみたいにつくってみようと思ったわけです。

しかも、アートの作家ってほとんど売れていない。昔は王様や貴族がパトロンとして援助してくれたけれど、いまは王様や貴族もいないので、一般の人が応援できる仕組みがあればいいなと。少額だったとしても塵も積もれば山となるわけで、「つくり続けよう」と思える原動力になるかもしれない。それが月20万円程度の収入になれば、究極は作品を売らなくても済むかもしれない。

西野達をご存じですか。ベルリン在住で、屋外のモニュメントや街灯などを取り込んだ大掛かりなプロジェクト作品をつくっている現代美術家なのですが、このプラットフォームのアイデアについて話したら、「それなら作品を売らないで済む」と言ったんですね。

「アート市場」と「ピュアな表現」のふたつをバランスさせていくこの現実世界で、ピュアな表現だけでアーティストがアーティストたりえて生きていける。それが、私がArtStickerで追い求めている理想の一つです。

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「シンガポールビエンナーレ2011」で発表された西野達の作品「The Merlion Hotel」。実際のマーライオンを部屋に取り込むように部屋を建設、期間限定で宿泊可能とした。

杉田:とても素敵です。あと、支援の際にひと言も添えられるのもいいなと思いました。

遠山:作家にとってはすごく嬉しいみたいですね。画家の岡田裕子さんからは「インスタのいいねも嬉しいけれど、300円を支援してくれた上でのひと言には、本人の意思を感じるからもっと嬉しい」と言われました。能動的な行為だから、気持ちがさらに伝わってくるんでしょう。

鑑賞者側も、ギャラリーだと緊張感がありすぎて作家に何も言えずに出てしまうことが多いけれど、ArtStickerでは気兼ねなく素直な思いを伝えられますからね。

杉田:僕は、買う方も表現者だと思うんです。みんながAさんの作品を買っているときに、「私はBさんの作品を買ってみよう」というのも一種の表現方法ではないかと。

アート業界にはいわゆる有名メガギャラリーがあって、美術館や有名コレクターのコネを握っている。小さなギャラリーではいくら素晴らしい展示をしても、その作家がポピュラーになりづらかったり、美術館の企画展に呼ばれさえしなかったりすることが多いです。
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取材・構成=堀 香織 撮影=山本マオ

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