せめて月に一度くらい、可能なら二度でも三度でも、誰にも邪魔されず、両手を伸ばして深呼吸をするために滞在するのはどうだろう。
東京のホテルは、時に伝統文化や江戸の粋が活かされ、また時には、都会らしい最新鋭設備を纏うなど、それぞれが個性的に進化を遂げている。
ゆったりと異空間に身を委ね、すべてを忘れて過ごす癒しの時間。まずは週末、金曜日の夜にチェックインして、日曜の午後まで、別宅で過ごすように、自分独りで夢想に浸るのも今どきの流儀であろう。
ホテルジャーナリスト せきねきょうこ
東京には大都会から海、山岳地帯まで様々な顔がある。中でも、中央区兜町の東京証券取引所界隈は、日本のウォールストリートとも呼ばれビジネスに特化された地区であり、証券会社が多く点在する。
この街の一角の静かな裏通りに面し、重厚感のあるアンティークなビルを利用したウルトラモダンなホテルが誕生している。開業は2020年2月。独立系ブティックホテルとして、歴史的な建物と、斬新なデザインとが融合された特別感のあるホテルである。
造ったのは、3名の起業家たち。ホテルの企画・開発・運営を行う岡雄大さん、ブランディングやプロモーションを担当した松井明洋さん、ファウンダーは東日本橋・馬喰横山のホステルCITANなどを立ち上げた本間貴裕さんだ。今回は、ホテルのPRを担当している大倉皓平さんに話を聞いた。
感性の鋭さをそれぞれの持ち場で活かしながら、彼らは、ホテル造りのビジョンに「街づくりに貢献する会社へ」と掲げた。ホテルを通して日本橋兜町・茅場町の再活性化を図ろうというのである。
ヨーロッパで見かけるスタイリッシュなホテルの案内。入り口も分かり難いが、サインも小さい、これでいい。
ホテルを造ったきっかけは、東京証券取引所のビルなど、兜町界隈の不動産を広域に所有する平和不動産からの相談にあった。
「日本橋兜町を国際金融都市としてより元気にしていきたい」と願う意図に賛同したのがこのプロジェクトの始まりという。未来を感じさせるプロジェクトに対し、行動力と判断力を伴う熱い思いの3人が動かないはずはない。
ホテルとなったビルは、1923年築の元銀行だった兜町第5平和ビルだ。私自身は外観を見るなり、世界一の金融街、スイスのチューリヒの歴史地区にビルに似ていることで驚いた。
頑強で重厚感のあるビル自体は解体などせず、躯体を残す方法で、館内をすっかりリノベーション。耐震改修工事等の建物の安全面の向上も含め、スタイリッシュなデザインの「K5」誕生と、共に見つめる近未来を目指していると理解している。