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2021.05.26

神戸市が阪急オアシスと連携 料理人を支援する「食のスタートアップ」企画

食のスタートアップで第1期の出店者として選ばれた仲塚元秋


選ばれたのは本格フレンチのシェフ


この有利な契約条件で「食のスタートアップ」に参加する料理人は、審査で選ばれることになった。16組の応募から書類審査で選ばれた8組の料理人が、神戸にある調理専門学校で行われた実技審査に挑んだ。

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3月に調理専門学校で開催された実技審査

制限時間は60分、持ち込み材料の確認が終わり調理開始のベルが鳴る。それぞれが包丁を握って下ごしらえをしたり、オーブンに入れる生地を練りはじめたりすると、会場の空気が張り詰めた。

調理専門学校の講師ら審査員による試食を経て、選ばれたのは2組の料理人だ。第1期の4月から7月まで出店するのが仲塚元秋、30年以上ミシュラン3つ星を獲得したパリの「タイユヴァン」で前菜を担当したキャリアを持つ料理人だ。

仲塚はフランス・オーベルニュ地方で生まれた「パスカード」という料理を武器に審査に臨んだ。フワッと厚手に焼かれたクレープ生地にいくつかの具材を盛りつける郷土料理だ。

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フランス・オーベルニュ地方の郷土料理「パスカード」

ところが、阪急オアシスの岡田店長からは「食べると最高だが、店の前でチラ見しただけでは、どんな味か想像できない。このままでは厳しいですね」とダメ出しを受ける。

それもそのはず、料理を供することになるフードコートのまわりには、サラダや小籠包、パスタというような、ひと目で味がわかる料理を出す店が並んでいる。そのなかには東京などで実績を上げている店もある。

そこで仲塚は、生地に盛りつけるはずの具材を、「春キャベツと明石のイカのペペロンチーノ」や「茄子とズッキーニの重ね焼き」として、それだけでデリ販売することにした。

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パスカードの具材をデリとして個別販売

これには、岡田店長も「1つ1つが美味しい。私自身も週に2、3回は買って家で楽しんでいます」といまは笑みを浮かべる。そして、通常の総菜売り場にもこれらの商品が並ぶ予定だ。

仲塚も「将来、自分の店を持ったときにも持ち帰りサービスは必要です。今回はその大きなヒントを得ることができました」と話す。

仲塚は、1年半前から自らの店を持とうと三宮や元町で物件を探していたそうだが、まだ見つかっていないという。神戸のホテルに勤務していたときは、たくさんのスタッフを束ねる総料理長になりたいと思っていたが、4年前に独立して岡山のレストランで働き始めたころから、考えが変わった。仲塚は言う。

「ホテルでは場所やスタッフ、材料の仕入先まで準備されている。だが、街場(まちば)の独立したレストランではそうではない。お金の流れさえ押さえていれば、オーナーシェフとして自由に料理を提供できることに大きな魅力を感じました」

とはいえ、地元に近い明石出身で市内のホテルで勤務した経験を持つ彼でも、神戸の中心部に店を出すには大きなハードルがあったという。

「まだ私の味を知っている客はほとんどいない。独立したときにいちばん苦労するのは、まず店に来て食べてもらうことです。でも、フランス料理は気軽に行ける店ではない。なので、いまこうしてたくさんの人に料理を味わっていただけるのは大きなチャンスです。このなかに将来、私の店の常連になる人が絶対いるはずだ、そう思ってやっています」

仲塚の料理を食べた私自身も、その常連の1人になるような予感がしてならない。

連載:地方発イノベーションの秘訣
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文=多名部重則

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