井田(続き):それならば、望む人だけに改姓を認めるべきです。ですから、旧姓使用を拡大すればいいという議論にだまされてはいけません。あなたたちに名前を名乗る権利はないが、旧姓をあちこちで少し名乗れればいいでしょう、限定的な通称で満足しなさい、どうせ家長ほど責任のある立場にはならないのだからという意見なのです。
2001年の段階で、内閣府の会議で、旧姓の通称使用はコストをかけて混乱が起こるごまかしの施策だという提言が出ています。職場での名前国や地方自治体では莫大な予算をかけて住民票やマイナンバーに旧姓を併記できるようになりましたが、私たちはそれでも旧姓のみで新規口座を作ったり、海外に渡航したりすることはできません。自分の名前が法的にどこでも通用する法律にすることが大切なのです。
影響力を持つ政財界への働きかけ
選択的夫婦別姓の早期実現を求めるビジネスリーダーの共同声明に賛同する経営者ら
NYNJ三村:井田さんたちが今年4月から始めた「選択的夫婦別姓の早期実現を求めるビジネスリーダー有志の会」の活動について教えてください。
井田:選択的夫婦別姓の法改正には、自民党の議員がキーとなっていますが、多くの自民党国会議員から「企業や経済界の賛同を得たらいい」とアドバイスをもらいました。それは、経済界が政治のご意見番だからです。企業の経営者や業界団体の方々は税金の使い方について提言をしたり、日々の政策を決める政府機関の委員をしたり、私たちのような一般市民よりも政界への強い影響力を持っています。そのような方に働きかけて業界団体などが動くことで、耳を傾けざるを得ない状況になるというのです。
経営者の方々にお話をすると、ジェンダー平等は当たり前になっていかなければいけないのに、選択的夫婦別姓すら認められていないのはおかしいという共通認識がありました。困りごとや負担には、みなさん共感してくれます。経営面から見ても、望まない改姓をさせて二重名字の運用をすることは不自然で、経営上もコストがかかることなのだと実感しました。
NYNJ三村:夫婦同姓を義務付ける法律が、男性優位の社会につながっていることがわかりましたが、男性の立場からは、選択的夫婦別姓についてどのような意見があるのでしょうか。
井田:私たちのメンバーのうち、3割が男性です。事実婚で、どちらも改姓を望まないカップルや、妻の姓に変えて業務上の不利益を被ったり偏見を受けたりした方などがいます。未婚の方も声をあげています。男性の意識は、若い世代ほど変わってきていると思います。
5月13日、埼玉県知事に法改正の要望を手渡した。プロジェクターに映るのは、ビジネスリーダー有志の会共同代表を務めるドワンゴの夏野剛社長
5月中旬に埼玉県知事に法改正の要望を手交しましたが、埼玉県でとったアンケートでは、30代男性の44%が結婚する際に別姓を選びたいと回答しています。結婚の平均年齢は30代で、自分もパートナーも改姓を望まない場合は結婚できないリスクがあります。結婚ができないと、日本では婚外子はさまざまな差別を受けることがあるので子どもを持ちづらく、子どもを産む機会を失うこともあります。法の下の平等によって当たり前にあるべき権利がないことによる不利益に気づき始めた人たちが、動き出しています。