斬新な「公共トイレ」誕生から約10か月、前向きな反応とマナー問題

神宮通公園トイレ。デザイン:安藤忠雄 撮影:永禮賢 提供:日本財団

暗い、汚い、臭い、怖い。ネガティブなイメージのある公共トイレを生まれ変わらせようと、日本財団が2018年10月からスタートした「THE TOKYO TOILET」プロジェクト。

佐藤可士和氏や隈研吾氏をはじめとする世界的クリエイターが、年齢や性別、障害を問わず誰もが使用できる公共トイレをデザインする。

大和ハウスやTOTOも参画し、2021年度中に渋谷区内17か所所設置する予定だ。7か所はすでに工事が完了し、一般利用が始まっている。

各トイレにはデザイナーならではの特色があり、例えば、「代々木深町小公園トイレ(富ヶ谷)」「はるのおがわコミュニティパークトイレ(代々木)」は、鍵を締めると不透明になるガラスが使用されている。どちらも建築家、坂茂氏がデザインした。トイレに入る前に中が綺麗かどうか、誰もいないかを確認することができる。


代々木深町小公園トイレ。デザイン:坂茂 撮影:永禮賢 提供:日本財団


はるのおがわコミュニティパークトイレ。デザイン:坂茂 撮影:永禮賢 提供:日本財団

神宮通公園トイレは、安藤忠雄氏のデザインだ。外壁はたて格子で、光と風を通す。ひさしは大きくせり出し、縁側をつくる造形となっている。

また17カ所全てのトイレには、視認性を重視した、佐藤可士和氏のピクトグラム(非常口マークに代表される記号)が設置されている。


提供:日本財団 

トイレを点数化


快適さを保つため、維持管理体制も構築されている。通常、渋谷区内の公共トイレ清掃は1日1回だが、このプロジェクトで設置されるトイレは1日2〜3回行われる。清掃員のユニフォームは、ファッションデザイナーNIGO氏がデザインしたもので、スタッフのモチベーション向上を狙う。


提供:日本財団

さらに、清掃が行われると、その後トイレ診断士がゴミや臭いなどを確認し、診断報告書を作成。その際にはトイレの快適度を100点満点で点数化し、第三者目線で評価をするのだという。

こうした取り組みの甲斐あってか、「若い方、特に女性の利用が増えているという印象がある。綺麗に使っていただける方が増えている」と担当者は話す。

利用者からも「これまで暗くて怖かった公園だったが、子どもを連れて行きやすくなった」「ベビーカーを持ったままでも入れるユニバーサル仕様のトイレができてありがたい」と、前向きな声が上がっているという。

誰でも使えるからこそ起きる、マナーの問題


しかし、それでもマナーの悪い利用者は消えない。安藤忠雄氏がデザインした神宮通公園トイレでは、壁や鏡への落書きが見つかった。鏡の落書きは手当てが出来ず、取り替えとなった。防犯カメラの設置もしているが、不適切な利用の抑止にはつながっていないという。「夜間の利用が非常に厳しい状況。夕方の清掃から翌朝の清掃までの間に、どうしても汚くなってしまう」と担当者は頭を抱えている。

当初、有料化も検討したというが、「色々な人に使ってもらう上でのハードルになってはいけない」との理由から、無料提供を続けている。

「誰でも使える」という公共性ゆえに、こうしたマナーの問題を根絶することは難しい。渋谷区のような土地柄ではなおさらだ。日本財団では今後、いたずらが起きている神宮通公園のトイレで、夜間の使用を取りやめることも検討しているという。

文=露原直人

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