背景には、アップルが新たに導入したiPhone/iPad向けの「iOS 14.5」が、モバイルユーザーのトラッキング(追跡)を制限したことが挙げられる。
モバイル広告の業界団体「ポストIDFAアライアンス」を設立した、Liftoff社のデニス・ミンクは、「iOS 14.5のリリースに伴い、マーケターが広告費の一部をアンドロイドにシフトさせたのは、自然なことだ」と述べている。彼によると、アンドロイドにおいてマーケターは、iOSよりもパフォーマンスを詳細に把握でき、十分な最適化が行えるという。
アップルは、昨年6月にIDFA(Identifier for Advertisers)と呼ばれるiPhoneのデバイス識別子へのアドテクノロジー企業のアクセス方法に大きな変更が加えられることを警告し、2週間前にiOS 14.5をリリースした。新たなアップルのOSでは、ユーザーの同意を得ない限り、ターゲティング広告のためにデータを利用できないが、大半のユーザーがこれを拒否している。
その結果、モバイル業界は大きく揺れている。
App AnnieのCEOであるTed Krantzは、「すでに多くの社内データを持っている企業は、おそらくこの嵐を乗り切るが、その他の企業は他社と協力してより大きなデータベースを構築する必要に迫られている」と述べている。
今のところ、最大の影響は、アップルのOSを搭載したモバイル端末から、アンドロイドに広告費がシフトしていることだ。Liftoff社によると、ポストIDFAアライアンスの参加企業はすべて、iOSのアップデート後にアンドロイドでの広告費の増加を確認したという。
Liftoff社の広告主のアンドロイド向け広告費は8.3%増加し、モバイル広告プラットフォームのVungle社では、過去2週間でアンドロイド向け広告費が21%の急増になったという。
一方で、iOS向けの広告費は減少傾向にある。ただし、下げ幅はさほど大きなものではなく、企業ごとに状況は異なる。Liftoff社の場合は2.5%から3.6%の減少で、Vungleの場合はiOS向け広告費が3.3%増となっている。
一時的な現象で終わる可能性も
「モバイルエコシステムのプレーヤーは、この変化に過剰に反応するべきではない」と、Liftoff社のミンクは話す。「今はまだ初期段階であり、新たなiOSの普及が進めば、広告費も回復するはずだ」と、彼は付け加えた。
アップルはアンドロイドに比べて、新たなOSの普及速度が速いことで知られるが、iOS 14.5の導入率はまだ低く、現状でアップデートを行ったのは11.5%から14.9%程度にとどまっているという。
また、早い段階でiOS 14.5を導入した人々はテクノロジーに詳しく、追跡を許可しない場合が多いが、遅れてアップデートを行う人々は、プライバシーの問題にさほど注意を払わず、「許可する」ボタンを押すケースが多いことも想定できる。いずれにしろ、アップデートの真の影響が見えてくるのは、もう少し先の事になりそうだ。