ビジネス

2021.05.21

イーロン・マスクのライバルは、未来からトラックを「逆算」する

リヴィアンCEOのR・J・スカリンジと同社の電動ピックアップトラック、「R1T」


しかし、テスラにとって最も厄介なのが、リヴィアンとコックス・オートモーティブの提携だ。テスラは30の州で100以上のサービスセンターを展開しているが、コックスは専業のサービスセンターや提携ディーラーのサービスセンターからなる全米規模のサービス拠点網をもっており、19年には5500万件を超えるサービス予約に対応している。

リヴィアンのR1TやR1Sに不具合が起きた場合、顧客はコックスのサービスセンターに車両をもち込み、修理してもらえる。そのようなサービスの提供は、テスラが創業当時から苦戦していることだ。

コックスもまた、リヴィアンとの長期的な事業提携を考えている。市場にリヴィアン車が増えるようになったら、その中古車販売を仕切りたいのだ。あとは、リヴィアンがそのクルマを製造するだけだ。

地域社会との対話から生まれた「共感」


リヴィアンが本拠地と呼ぶイリノイ州の街の名前は、スカリンジ自身を描写するうえでも、マスクと区別するうえでもぴったりな形容詞だ。その名も「ノーマル(自然体)」である。

15年7月に三菱自動車の工場が閉鎖されたとき、街は葬式ムードに包まれていた。クリス・クース市長は「工場の閉鎖は痛手だった」と振り返る。

「1000人以上が失業し、影響は地域全体に波及しました」

17年に工場がリヴィアンに売却された後も、住民は懐疑的だった。だが、負の感情はすぐに変化した。「リヴィアンは、この地域での暮らしや教育の質、手ごろな価格の住宅の有無、交通機関へのアクセスなどの問題に関心を示しました」と、クース市長は語る。同社は、19年の夏にノーマルで内覧会まで開き、地元住民のどんな質問にも答えた。それはノーマル市民のリヴィアンに対する認識に大きな影響を与え、そして当然ながら、従業員を募集する際にも役立った。

街の支持を得たスカリンジは、今度はリヴィアンにとって初めてとなる生産サイクルと車種の拡充に取り組んでいる。誰がEV競争を制するかを判断するのは時期尚早だ。とはいえ、「リヴィアンは、生き残るだけでなく、繁栄する可能性が高い数少ない数社のうちの1社」だと、市場調査会社ガイドハウス・インサイトのサム・アブールサーミドは語る。

「最も生産台数が多く、短中期的に市場に車両を投入できるのは、おそらくテスラでしょう」

しかし、実際のビジネスの観点からすると、リヴィアンは「その製品の性質上、より成功しやすい状況にある」と言うのだ。

もっともそのためにも、リヴィアンはまずはクルマを路上に出さなければならない。


RIVIAN リヴィアン◎2009年創業、米ミシガン州に拠点を置く電気自動車(EV)メーカー。創業者兼CEOはR・J・スカリンジ。電動ピックアップトラックの「R1T」と、7人乗りの電動SUVの「R1S」 を開発。R1Tのローンチ・エディションは今年の6月、R1Sのローンチ・エディションは8月に納車を予定している。

R・J・スカリンジ◎電気自動車メーカー「リヴィアン」創業者兼CEO。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン自動車研究所で博士号を取得後、2009年にフロリダ州メルボルンで、リヴィアンの前身となる「メインストリーム・モーターズ」を立ち上げた。妻と3人の息子を大切にする家庭人ながら、出張続きで家族に会えないのが悩みの種。

文=チャック・タナート 写真=ジャメル・トッピン 翻訳=木村理恵

この記事は 「Forbes JAPAN No.080 2021年4月号(2021/2/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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