──パンデミックの投資戦略への影響は?
パンデミックにより、あらゆるIT技術の普及が加速しました。米国では昨年、1日の平均ネット利用時間が45分増えました。それゆえネット企業の価値が再評価され、1兆ドルを超す企業も現れたのです。BtoCのインターネット企業の累積資本金は現在7兆5000億ドルで、この10年で10倍に成長しています。今後20年でさらに6倍以上伸びて、50兆ドルを超えると見ています。
──決断の法則は?
数字50%、心理学50%。前者はモスクワ大学物理学部、後者はドストエフスキーに培われました。短い時間で起業家がどんな人物なのかを理解するには、心理学が役に立ちます。
──起業家のどこを見る?
最も重要な指標は、その人の知的好奇心です。もっと言えば、役に立たなさそうなことにも、真剣に興味をもてるかどうか。例えばザッカーバーグは並外れた歴史好きで、科学への関心も深い。どちらも、フェイスブックの日々の経営に絶対必要なものではありません。
──好奇心と企業経営にどんな関係が?
好奇心が強い人は、何にでも興味をもちます。自分の会社の外も含め、物事の仕組みや動き。第一原理に基づいて説明するとどうなるのか、本質を探り出そうとします。
──慈善活動へのかかわりは?
ビル・ゲイツやウォーレン・バフェットが始めた慈善活動「ギビング・プレッジ」に、妻のジュリアとともに署名しています。少なくとも資産の半分を慈善事業に寄付することが条件ですが、私たち夫婦はさらに多くを寄付すると誓っています。
──12年に自身で慈善団体「ブレイクスルー賞財団」を立ち上げた理由は?
ブレイクスルー賞は「21世紀のノーベル賞」「科学界のオスカー」などと呼ばれていますが、私がこの賞を創設したのは、科学研究に資金を提供したかったからです。投資は、そのための手段。我々の投資で投資家の皆さんが儲かれば、基礎科学の分野でより大規模な慈善プロジェクトを実施できるようになる。すべては科学のためなのです。
ブレイクスルー賞はミルナー夫妻(中央)、ザッカーバーグ夫妻、セルゲイ・ブリン(左)と元妻が発起人。写真右端はブリンの現在の妻で、起業家のニコール・シャナハン。
──ブレイクスルー賞の賞金はノーベル賞の3倍。なぜ社会貢献活動にこれほどの大金を投じるのか?
私にとって科学は、幼少期からの夢。極めて個人的な思いから始めたものですが、それがグローバルな規模に膨らんだのは、科学に国境はないからでしょう。我々がサポートする科学プロジェクトの規模は年々拡大しており、財団は年に1億ドル近くを提供しています。世間一般でも、ここ数年で慈善活動に対する社会的需要は急速に高まっています。1000億ドルを超える大規模な個人資本が出現したことも理由のひとつですが、「富の再分配」の傾向は、今後ますます強まっていくと思います。