装幀・デザインの現場から見える風景

『柚木沙弥郎の染色 もようと色彩』と『柚木沙弥郎のことば』

染色家の柚木沙弥郎さんを知ったのは、2018年に南青山の複合文化施設スパイラルで開催された「柚木沙弥郎展 −紙に描かれた模様−」だった。

その日、何の気なしにぶらりとしていたら、突如目に飛び込んできた巨大な「模様」。天井から吊るされた抽象的ともいえる大判の型染めの数々。「いったい、これはなんだろう?」、わたしは瞬時にしてこころを奪われた。

その「模様」は、いままでわたしが見てきたもののいずれとも異なる「何か」だった。知っているようで知らない、馴染みがあるようでいて前衛的。いずれの作品も底知れない生命力のようなものがみなぎっていた。

人は未知のものに出会うと、興奮すると同時に混乱してしまうもの。その混乱を鎮めようと、わたしは作者である柚木さんについて調べようと思った。そして驚いた。柚木さんは95歳(当時)の大ベテランといっていい、民藝をルーツとするアーティストだったからだ。

ものごとに年齢は関係ない。それはそうかもしれない。しかし、どうやったらこんなに現代的でエネルギー溢れる、フレッシュな作品を生み出せるのだろう?

それから私は折々の展示会や、本やテレビ、ラジオなどを通して柚木さんに触れてきたが、今回のコラムでは、『柚木沙弥郎の染色 もようと色彩』(日本民藝館所蔵作品集 筑摩書房)、『柚木沙弥郎のことば』(柚木沙弥郎・熱田千鶴=著、木寺紀雄=写真 グラフィック社)より3つのフレーズを抜粋して紹介させていただこうとおもう。

何気ない日常に、生活に、きっと今までとは違った視点を与えてくれるはずだ。

うれしくなるよりしょうがない


「模様を生み出すにはうれしくなるよりしょうがない。わくわくしてなきゃ。そんな状態に自分がなれなきゃ生み出せないんです。そういう活力ですよ。エネルギー。しかたないからやるんじゃない。こっちからやらなきゃ。面白いなあ、と思って、そうするといろいろと出てくるんですよ」(『柚木沙弥郎の染色 もようと色彩』)

柚木さんは、創作について、こんなふうに語っている。

装丁家である私は、何かをつくるということは、ときに苦しく辛いものだというふうにどこかで思っていた。熟慮を重ね、吟味し、ときにアイデアが天から降りてくるのを待つ。そして、時計を確認しては孤独に机にかじりつく……。どこかそんなステレオタイプなイメージを持っていた。「生みの苦しみ」とも言いますし。

しかし、柚木さんは、シンプルに「うれしくなるよりしょうがない」と言う。私はそんな言葉をアーティストの口から聞くとは思わなかった。あまりにもあっけらかんとしたスタンスに驚いた。

あ、そうか。ときに重く、つらくとらえてしまいがちな仕事でのクリエイティブも、大きな意味では何かを生み出す作業に違いはない。その生み出すことをシンプルに楽しんだっていいんだというふうに思えたのは、この言葉に接してから。私にとっては一種のパラダイム・シフトだった。

つまり勝手に拡大解釈させてもらえば「人生はうれしくなければもったいない」。何も自ら仕事を、人生をしんどくとらえる必要はないのだ。

文=長井究衡

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