現代アーティスト鬼頭健吾に聞く アート界を生き抜くための知恵と戦略

現代アーティスト・鬼頭健吾氏(撮影=神谷拓範)


日本には特有の現代アートへの関心やルールがありますが、アメリカ、イギリスなど、国によっても違いがあります。コンテクストのつくり方も、国によってかなり違いがある。日本から海外に出ていくときには、こうした海外のコンテクストの傾向を理解して作品をつくる力も求められます。

コンテクストのつくり方についても、歴史や社会とどう接続させ、それが作品とどう接続するのかといった組み立てが大事です。これからの日本の若手アーティストにとって、コンテクストの力をどう伸ばしていくかは今後の課題でもあります。

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──ギャラリーやコレクターなど、アーティストを取り巻く環境については、どう見ていますか?

僕がドイツから日本に帰ってきて5、6年経ちますが、ここ数年で日本のアートを取り巻く環境は圧倒的に変化しています。それはギャラリーやコレクターにも言えることです。

3月にオープンした新ギャラリー「MtK Contemporary Art」は、オーナーが31歳の女性です。もともとコレクターだった方に、「京都でギャラリーやりたいんですよね」って言ったら「じゃあ、やりますか」となって半年で一気につくりました。こんなスピード感、以前だったら考えられません。

購入者も変化しています。少し前までは、購入者同士でアートの情報をシェアすることはあまり多くありませんでした。でも、最近アートを買ってくれるコレクターや若い起業家の方たちは、仲間同士で来てくれたり、情報をシェアしている。

ベンチャー企業の経営者や投資家たちは、もともとフレンドシップがすごくありますし、そうしたネットワークで事業を成功させていますから、アートの情報に対しても自然とシェアのスタンスなんだと思います。

アートに興味を持ってくれている起業家と話していて思うのは、意外と僕たちアーティストと共通点が多いということ。たとえば、アートもベンチャーも、「人真似」しても結局残らないから、イノベーションを起こした人だけが成功していく。仲間のなかで1人目立つ人が出てくると、その人を起点に周囲がひっぱり上げ合っていく「集団出世」も似ています。

個としての競争原理はありつつ、時代の熱量を共有しながら、ある種のムーブメントとして仲間同士でのし上がっていく。これは、ベンチャー起業家とアーティストの類似点ですね。

──現役のアーティストであり、次世代アーティストを育てる立場として、鬼頭さん自身が今後やっていきたいことは?

日本はアーティストが圧倒的に少ない国です。医大に行ったら医者になるのは普通ですが、美大や芸大に行ってアーティストにならずに就職しても、誰もおかしいと言わない。

仮にアーティストになれても生き残っていける人はごくわずか。アーティストを育てることはもちろんですが、ギャラリーやコレクター、美術館などアーティストを取り巻く生態系全体が進化していく必要があります。

ここ数年、現代アートに注目が集まったおかげで、アートの世界に起業家やビジネスリーダーなど、これまでと違うプレゼンスを持った人たちが集まってきています。これまでにない多様な交流が生まれていて、新しいムーブメントが起こりつつある。この変化を追い風に、新しい時代のアートシーンをつくっていきたいです。

文=鶴岡優子 写真=神谷拓範(人物)、Shinya Kigure(作品) 編集=松崎美和子

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