現代アーティスト鬼頭健吾に聞く アート界を生き抜くための知恵と戦略

現代アーティスト・鬼頭健吾氏(撮影=神谷拓範)


しかし、部屋が狭いので、どうしても作品も小さくなってしまう。それが嫌で、狭い部屋でつくっても大きな作品になるものを探していくうちに、いまは代名詞にもなったフラフープをつかった作品をつくる発想に繋がりました。

実家に戻ると同時に、僕は「美術以外でお金を稼がない」ことも決意しました。美術以外のバイトをして、残った時間で作品をつくるのは、アーティストにとってすごく遠回りです。「美術以外でお金はもらいません」と決めてしまえば、自然とそのためにどうするかを考えて生きていくようになります。

だから、今教えている学生には「まず親を説得しなさい」と話しています。食べていけるまでの間、作品に専念したいから、実家で作品を作らせてほしいと。経済的なサポートはもちろんですが、親も説得できないようでは、アーティストとしてやっていく上で他の誰も説得できません。


タイトル:untitled(hula-hoop)(2017) 撮影:Shinya Kigure

──アーティストとして軌道に乗るために必要なマインドやスキルは、どうやって身につけていくのでしょうか?

アーティストの道を歩み始めたとしても、それだけで食べていける人、人気が出る人はごくわずか。厳しい道のりを不安に思う学生の中には、将来大学の教員になれるよう博士号を取ろうとする学生もいます。

しかし、今は大学の数も少なく、学生も減少していますから、教員になる道も険しいでしょう。第一、作家としてのキャリアには、博士号を持っているかどうかはまったく関係がない。そんな頼りにならない保険にすがるより、アーティストとして、なんとしても自立するんだという独立心の方がはるかに大切です。

僕は学生に「白馬の王子様っていませんよ」とよく言うんです。アーティストとしてやっていくには、いい作品をつくるだけでなく、ファンやコレクターになってくれる人とのネットワークが大切。それを待っていてはダメですし、運良く一度購入してくれた人がいたとしても、継続して購入してくれる保証はないわけですから。

美大や芸大では、作品のクオリティの上げ方は教えてもらえますが、どうやったらアーティストとして社会で認知されるのかについては、教えてくれないことが多い。だから、僕はコレクターやキュレーターのトップクラスの人たちを大学院の授業に招いています。第一線で活躍しているプロに、学生が自分の作品をプレゼンするといった現場主義的なトレーニングをするわけです。これを2年間の大学院生活でやった学生は、驚くほどイキイキして、成長していきます。

教える側にとって重要な視点は、学生の能力があるかどうかではなく、能力をどう伸ばすか。そこで大事になるのが素直さです。若いアーティストにとって、素直さはとても重要な資質です。

──現代アーティストとしての成長ステージにおいて、世界に出ていくことは避けて通れないと思います。海外へ出て行く時にはどんな壁が待ち受けているのでしょうか?

現代アートの評価軸として、作品の技法など「もの」としてのレベルの高さだけでなく、コンテクスト(作品の背景、文脈)が重要です。知識、思想を土台にしたコンテクストが一定のレベルに達していないと、国際的には通用しません。
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文=鶴岡優子 写真=神谷拓範(人物)、Shinya Kigure(作品) 編集=松崎美和子

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