「灘校」で実施される特別授業 子どもの世界を広げる、その内容とは?

積極的に質問にこたえる灘校生徒たち(提供:神戸市)

子どもを持つ親が、我が子には勉強やスポーツができてほしいと願うのは当然のこと。しかしそれと同時に、多様性のあるこれからの社会を生き抜くためには、広い視野と豊かな心も必要になってくる。

そんなバランスの取れた人材を育てる教育を行っているのが、名実ともに日本トップクラスの進学校、灘中学校・高等学校(以下、灘校)だ。同校では、通常の授業の他に「総合的な探究の時間」の一環として選択制の「土曜講座」を行っている。

子どもの世界を広げるという授業の内容とはどんなものなのだろうか? ある日の「土曜講座」を取材した。

ユニークな講師が登壇! 生徒たちに広い視野を持つ機会を


灘校の「土曜講座」では、さまざまなジャンルのプロフェッショナルが講師を務めるが、その顔ぶれは実にユニークだ。

たとえば、感染症の流行を制御するべく奮闘する理論研究者や、再生医療のプロなどといったアカデミックなジャンルから。あるいは、神戸でコーヒーを通してさまざまな社会貢献活動に取り組むコーヒー豆店のオーナーや、貧困や環境破壊など社会問題の解決を目指して社会起業した食堂のオーナーなど。日常生活の中では出会えないさまざまなバックグラウンドを持つ人たちと関わりを持たせ、広い視野を持つ機会を生徒たちに与えているのだ。

現役パラアスリートとの触れ合いが気づかせてくれたこと


そして去る5月22日に、灘校の生徒たちが受講したのは「あすチャレ!ジュニアアカデミー」(日本財団パラリンピックサポートセンター主催)。このプログラムは、パラアスリートを中心とした講師によるレクチャーや対話を通して、共生社会の実現のために一人ひとりに何ができるのかを考えるきっかけをつくる、2018年から行われているワークショップ型授業だ。この日は、コロナ禍ということもありオンラインでの開催となった。講師はパラ・パワーリフティング女子55キロ級の山本恵理選手が務め、灘校の中学2年生から高校2年生までの11人の生徒が参加した。

まずは自己紹介。山本選手に続き、参加した生徒たちがニックネームや特技など簡単な自己紹介をしてプログラムはスタート。山本選手は自身の障がいのこと、パワーリフティングに出会い、パラリンピックを目指すまでの経緯などをカメラの向こうの生徒たちに語って聞かせる。

生まれつき歩けなかったという山本選手の話に、最初は戸惑っていた生徒たちも、山本選手に自身のニックネームを呼ばれ、感想や意見を求められるうちに自ら手をあげて質問をするようになっていった。

そんな中、ある生徒が「今まで他人にされて嬉しかったことはなんですか?」と質問した。そこで山本選手は、スーパーマーケットで買い物した時のエピソードを披露。大好きな大葉を買いにいったときのことだ。大葉が高い場所にあって取れずに困っていたら、気づいた店員さんが近寄ってきて「何かお手伝いしましょうか」と声をかけてくれた。そこで大葉を取って欲しいとお願いすると、その店員さんは大葉をいくつも手に取り「どれがいいですか?」と選ばせてくれたと言うのだ。買い物をするときに選択肢があるという健常者にとっては当たり前のことが、車いすユーザーにとっては当たり前ではないということを生徒たちが初めて知った瞬間だった。
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text by Kaori Hamanaka(パラサポWEB)

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