では、こうした事業をサステナブルに運営していくために、F・マリノススポーツクラブではどのような手段をとっていくのだろうか。そのキーワードは「課題解決型スポーツビジネスモデル」にあると宮本氏は語る。
「未来に向けて持続可能な形態を維持するサステナブルとは、言い換えれば、経済的・社会的自立に他なりません。つまり、これまでの収益源であったチケットや広告の販売に頼ることなく、ホームタウンでの活動や選手の育成、サッカーの普及をテーマに収益を上げていかなければならないということです。その実現に向けて我々が着目したのが、マリノスのブランドやアセット(資産、強み)を活用した地域課題の解決です」(宮本氏)
トップチームの選手が港北区内の小学校を訪問して一緒にサッカーを楽しむ「スぺシャルサッカーキャラバン」。子どもたちに体を動かす楽しさやサッカーの楽しさを感じてもらうために行っている(写真は2019年11月撮影)
横浜F・マリノスには20年以上に渡って、ホームタウンの横浜市や横須賀市、大和市へ地域貢献を果たしてきた歴史がある。サッカーを通じてともに夢を共有し、一丸となって地域を盛り上げることで得られたローカルからの絶対的な信頼は、掛け替えのない資産となっているのだ。こうした強みを足掛かりに、パートナー企業と少子高齢化や地元商店街の衰退といった地域課題を解決することで、新しい価値を創造していきたいというのが宮本氏の考えだ。
「日本もSDGsの条件をクリアしなければ、適正な投資先として選ばれない時代へと変わってきました。それは、これまでの我々の活動が評価されやすい世の中になったことを意味しています。そうしたときに、パートナーとして組んでいただく企業様が、これであれば一緒にやっていきたいというモデルをいかに提示できるかが勝負。サッカーというスポーツ軸と横浜・横須賀・大和というローカル軸をテーマに独自の価値を発揮できるのが、課題解決型スポーツビジネスモデルなのです」(宮本氏)
また、こうした取り組みはコロナにより既存のビジネスモデルが通用しなくなったスポーツ業界において、新たなモデルを確立するための試金石になると宮本氏は考えている。経済を活性化させる領域が残り少なくなっている中、国にはスポーツを15兆円規模の産業へ育てていきたいという願いがある。そのためにも、興業以外のあり方でスポーツをビジネスとして成立させるかどうかがいま問われているのだ。