とりわけ、その動向が顕著なのがJリーグクラブだ。2002年に湘南ベルマーレが立ち上げた特定非営利活動法人「湘南ベルマーレスポーツクラブ」を皮切りに、セレッソ大阪や東京ヴェルディなど、10以上のクラブも追随。サッカー以外の競技へ進出を果たし、関連スクールの展開も積極的に行うことで、日本のスポーツ文化全体の底上げに貢献している。
こうした流れに呼応するかのように、2019年のJリーグチャンピオンに輝いた、名門「横浜F・マリノス」を運営する横浜マリノス株式会社も昨年11月に「一般社団法人F・マリノススポーツクラブ」の設立を発表した。
各クラブが独自のアプローチで事業を展開する中、横浜マリノスはこのスポーツクラブを通じて、日本のスポーツビジネスの在り方そのものを変革し、新たな道を切り開いていくという。その実現に向け、どのようなビジョンを描いているのだろうか。同法人で代表理事を務める宮本功氏に話を聞いた。
あえて、一般社団法人を設立する意義。そこにはジレンマが──
設立した「一般社団法人F・マリノススポーツクラブ」はさっそく今年2月から、スポーツによるサステナブルな地域社会実現に向けた取り組みと世界で活躍する選手の育成の強化を目的に、新たな事業を開始させた。
横浜F・マリノスといえば、これまでも老若男女を問わず、誰にでもサッカーの魅力を伝える「ふれあいサッカープロジェクト」やJリーグ初の知的障がい者サッカーチーム「フトゥーロ」の活動などを通して、地域社会に貢献してきた。あえて、一般社団法人を立ち上げ、事業を推進する狙いはどんなところにあるのだろうか。
「Jリーグのクラブには大きく3つの機能があります。ひとつはスタジアムへの集客を目的とした興業、もうひとつは地域社会との関係性を育みながらファンの方たちと一体になって行うサッカーの普及、そして最後がサッカーの発展に欠かせない選手の育成です。中でも普及と育成は、企業にとっての研究開発部門のような、未来への投資に欠かせない大切な事業です。持続可能な形で継続させていくために、一般社団法人という組織形態を選択することで、さらなる飛躍を目指そうと考えました」(宮本氏)
横浜F・マリノスカップ 第17回電動車椅子サッカー大会の様子。電動車椅子サッカーの魅力を伝えると共に、地域社会の障がい者スポーツに対する理解度、関心度の向上等を目的に開催している(2020年1月撮影)
宮本氏がそう考えるのには訳がある。実はサッカーの普及と選手の育成は、長期的な視点に立てば、将来の収益につながる大事な事業だが、短期的にはすぐに利益を上げられないというジレンマを抱えている。そのため、これらの事業を非営利団体である一般社団法人に集約させることで、勝ち負けという一義的な解釈にとらわれることなく、コツコツと地道に育てていけるというメリットがあるのだ。
「一方で、(株式会社である)横浜マリノスは、これまで以上にチームへの強化費をかけ、AFCチャンピオンズリーグを含めた世界を舞台とするシビアなフィールドでリスクを取って活動していきます」(宮本氏)
屈指のトップチームである「横浜F・マリノス」は従来どおり株式会社で運営し、ホームタウン活動やアカデミー事業、障がい者スポーツは一般社団法人で運営していくというのが、それぞれの役割分担となる。