──かなり動きの自由度が高そうなので、表現の幅が無限に広がりそうですね。
山口:はい。例えばボットの群集の真ん中を人が歩いているとすると、その動きに合わせてボットが動く、という演出も考えられます。あとこれはまだ開発中なのですが、見ている人も含めて相対的に、状況に応じてボットの配置や動きが変わっていくなど、非常に幅の広い表現が可能になる予定です。
自由に動くことのできるボットなら、映像を足元で演出することも可能だ(photo by NTT)
世界でトップクラスのクリエイティブ機関とのコラボによって生まれた斬新なアイデア
アルス・エレクトロニカとの研究の様子(photo by NTT)
──そもそも、なぜこのようなものを作ろうと思ったのでしょうか?
千明裕氏(以下、千明):我々の会社は技術に自信があり、昔からさまざまなインフラを作ってきました。しかし、もっと多くの人たちに当社の技術を伝えるために、アート的な趣向を取り入れることによって、新しい社会的なインフラができないかと目標を掲げたんです。
アーティストの人は、普通の人と考え方が根本的に違いますよね。発想が逆転していたり、全然違う視点から見ていることが多い。そういったアートの持つ刺激的な発想や考え方なども取り入れ、当社の技術と組み合わせることで、新たなイノベーションを起こせないかと考えました。
そこで、アート×テクノロジーでいろいろなプロジェクトを手掛けている、世界でもトップクラスのクリエイティブ機関「アルス・エレクトロニカ」とコラボしたら面白いことができるんじゃないか、ということで2016年に共同研究をスタートしたんです。
──なるほど。たくさんのボットが集まって立体感のある映像を見せる、というアイデアも彼らとのコラボによって生まれたのでしょうか?
千明:そうですね。以前、アルス・エレクトロニカはドローンを100台同時に飛ばす「Drone 100」というプロジェクトを行っていて、ドローンの同時飛行台数世界一という、その当時のギネス記録を達成したんです。いかに空間を新しく表現し、創造するかということに挑戦していて、そこで得られた技術や知見をベースとして表現するときに、ボットとドローンを組み合わせたら、空だけではなく、地上も全てメディアにできるのではないか、という話になりました。それでボットをたくさん並べてやってみよう、ということになったんです。
群衆のことを“Swarm”と言うのですが、魚や鳥の群れは自律的に動きますよね。何かにぶつかりそうになったら避けて、また群れが元通りになる。どうやって指示を出しているのか分からないですけど、滑らかに動きますよね。そういった自然界のことも発想のポイントになっています。ボットやドローンで同じように表現できたら見ているほうも気持ちいいですし、技術としても美しいなと思うんですよ。
──100台ものボットを同時に動かし、自由自在にコントロールするには、かなり緻密な技術が必要だと思います。制御技術はどのようなものなのでしょうか?
千明:いろいろな要素がありますが、例えばボットを100台並べたら100台に制御信号を送らなければならないわけで。台数を増やせば増やすほど混信しますから、それが一つの課題になっていますね。ボットのポジショニングも重要で、位置の情報が不正確だとわずかなズレでもボット同士がぶつかってしまいますから。
ボットを正確に配置させることにも通信が使われているのですが、屋外ではGPSと通信技術を使うことで、わずか1cm単位の誤差も計測することができます。