同政府は今年、2025年をめどに製造業の競争力維持や国・社会の持続可能性、デジタル化に寄与する革新技術の研究開発などに250億シンガポールドル(約1兆9500億円)を投じると発表した。新型コロナウイルスの影響で国内経済が打撃を受ける中、デジタルトランスフォーメーション(DX)などを通じて企業が事業成長の機会をつかめるよう後押しする姿勢だ。その取り組みのひとつとして、IT人材誘致へ向けた新ビザ「テックパス」を導入、1月19日から申請を受け付けている。
こうした取り組みをいち早く行うことができるのは、5年毎に研究開発強化戦略として国家予算を割り当てていることが大きい。特に今年は「研究・イノベーション・エンタープライズ2025年計画(RIE2025)」を掲げ、国家全体で計画的にIT人材に投資しデジタル化を推し進めている。
一方、日本は、コロナ禍で行政手続きの遅さや連携不足が露呈し、デジタル後進国ぶりがあらわとなった。こうした状況を、シンガポールにいる日本人はどのように見ているのか。国立シンガポール大学リー・クワンユー公共政策大学院兼任教授であり、AI企業「RIMM」のアドバイザーでもある田村耕太郎氏に話を聞いた。
テックパス導入における同政府の思惑
テックパスとは、世界トップレベルのIT人材を誘致する目的として、同国で今年から新たに設けられたビザである。通常の専門職ビザでは就職先の企業が固定されるが、テック・パスでは国内で起業したり、複数の企業で働くなど、自由な働き方が可能となる。
一方で、取得要件は厳しく、「直近1年間の月給が2万シンガポールドル(約160万円)以上」などの条件を満たす必要があり、一定の成功を収めた起業家や、人工知能(AI)やデータ分析の専門家などを対象に想定している。
有能なIT人材がシンガポールで起業し、最先端のサービスを開発することで多くの雇用機会が生まれる。そしてIT企業の集積地として飛躍することが、同政府の目指すところだ。