(香川県高松市 スマートシティ構想)
──地域の多様性や特色を活かしたビジョンの作り方、具体的なビジョン追求の方法とは
中村:まずスマートシティを実践していくときは、自分の所属や立ち位置から離れ、会津若松市民の中村彰二朗として発言しますし、それはボードメンバーの市長にも同じことがいえます。行政ではなく、市民主導で何が必要なのかを考えれば、そこに必ず新規サービスのニーズが存在し、新しいビジネスも生まれてくるのです。要するに皆が一国民・一市民として発想するマインドに変える必要があると思います。
僕の場合、会津若松に来て、東京にいたときには見えなかったことが非常によく見えるようになりました。たとえば東京にいた頃のマインドで考えがちな「日本中でデジタルキャッシュを普及させたら、地方の小さな店舗も全てデータビジネスに変わる」という概念は、机上の空論に過ぎない。
なぜなら、そこには手数料や現金化への速度などの現実的な問題があって、そういった実感は地方にいないと分からない。ですから、地方から見る現場像と中央から見る全体像の両方からの目線が必要なのだと実感しています。
──マーケットがマスから個に変わっているのに、供給側の企業目線は変わらない。そこを市民や個人の視点で見ることで課題解決に近づくことができるということですよね。そのWhatとHowはどう決めるのでしょう?
山口:Whatはリードする人が決め、市民がまとめるプロセスで、Howはそれぞれのニーズに合わせて決めればよいと思います。一番大切なことはWhyで、状況の変化に合わせてロジックを立てていく必要があります。たとえば、行政区分のなかで物事を解決しようとしてもうまくいかないというケースがたくさんありますが、デジタル対応ですと多様性という観点からも未来に向けた色々な議論がもっと活発にできるのではないかと思っています。
──次にスマートシティ構想がなぜ高松や会津若松では上手くいったのかを聞かせていただきたい。どのようビジョンで、どのようにアーキテクトするのか。
山口:まだまだ発展途上ですが、ここまで何とか進むことができたのは一重に失敗を認めてもらえたということだと思います。基本理念や原則が定義できて、ビジョンさえ持っていれば、小さな失敗と成功を繰り返しながら進んで行けば良い。それからチーム編成はとても大切な要素となるので、ビジョンを共有することを含めてしっかりとした対応をするべきだと思います。
中村:まず、3か月やって普及しないものは捨てるといルールを取り決めました。簡単にいえば、市民の立場から見て自分が欲しくないサービスは作らない。今までの経緯からも市民目線からの発想は成功に繋がる比率が高いということが証明されています。
それから、100人や100世帯というような非常に小さい規模から始めて、そこで成功したらそのコミュニティに広げてもらう。市民に小さな成功体験を作ってもらい、それらを積み重なっているうちにやっと自己評価30点くらいの所までたどり着いたといった感じです。スマートシティはシステムづくりじゃないので、使いたいメリットがあれば普及するわけですし、やはり市民・国民目線から見た評価が成功の原点になるのだと思います。