輝きを失いつつある欧州(ミラノ)に住むぼくは、日本の人から「欧州のことを知るに良い本は何ですか?」と聞かれたら、次の2冊あげます。一冊は欧州統合の父と呼ばれるジャン・モネの『回想録』。もう一冊は中野さんが引用されたダグラス・マレー『西洋の自死』です。
二度の世界大戦を経験し、何としても同じ過ちをおこさないシステムとしての欧州統合への執念がモネによって語られます。理念は最終的に勝利するものだ、と勇気を与えてくれます。そしてマレーは、その理念が壁にぶち当たっているさまを、これでもか、これでもか、というほどにリアルに描いています。
寛容な多文化主義を掲げる白人のキリスト教徒が多く住んできた地域において、浅黒い肌と黒い髪のイスラム教徒が増えてきたとき、「地元の人たち」が理念を優先すべきと考え続けるか? ヨーロッパの街にイスラム教の尖塔は風景として相応しいと「地元の人たち」は受け入れ続けるのか?
こうした問いをマレーは投げかけています。一瞬、考えるのではなく、また受け入れるのではなく、長い期間、考え続けるのか、受け入れ続けるのか、です。ぼくも「地元民の余裕の減退」(「私たちが失業しているのに、どうして政府はあの人たちを救うのか?」との不満)を肌身に感じているので、読了後、大きなため息をつきました。
企業価値とブランドイメージ価値
ブランド評価会社・英ブランドファイナンス社の計算(2019年初頭時点)によれば、フェラーリやヴェルサーチェなどラグジュアリーのカテゴリーに入る企業の場合、企業価値に占めるブランドイメージ価値は40%強。同業の日産自動車やベネトンらのブランドでは10数%でした。
よってその差、20数%のところで、どう勝負するか。あるいは、この割合をどう維持・上昇させるか。これがハイエンド企業の大きな関心事になっていたわけです。20数%のなかにヨーロッパの栄光の歴史と文化をバックにした優位性があるのは明らかです。
ドルチェ&ガッバーナの2020年春夏コレクション(Getty Images)
しかし、その優位性を喪失しつつあるなかで、中野さんも触れたような炎上が相次いでいます。2018年11月、伊ブランド「ドルチェ&ガッバーナ(D&G)」の動画が中国で炎上しました。中国人が箸を使ってピッツァを食べるというシーンが大きな反発をうけたのです。文化優位性を笠に着るような振る舞いに殊の外、注意を払うべきところ、D&Gは逆をやってしまったのです。
その影響はいかほどだったのか、ブランドファイナンス社イタリア支社のマッシモ・ピッツォ氏は、「2018年1月の同社イメージは9億3700万米ドルだったが、2019年1月は8億1500万米ドルとなったので、このスキャンダルによって13%のマイナスだったと私たちは算出している」と分析しました。