米情報トップの行動が丸裸になった理由

へインズ米国家情報長官(Photo by Graeme Jennings - Pool/Getty Images)


一連のヘインズ氏の行動を巡る報道は、韓国メディアが伝えた。日本の元現職の情報関係者らは「ヘインズ氏の宿舎の場所やDMZに向かう予定などが報道された以上、米韓両政府のどちらかがリークしたのは間違いない」と口をそろえる。仮に、韓国が勝手にリークしたならば、米国が抗議して報道を止めさせるはずだが、ヘインズ氏の動静を伝える報道は切れ目なく続いた。ヘインズ氏の「公開行動」は、米韓共同の作品と言えそうだが、その背景にはそれぞれの都合があったようだ。

韓国にしてみれば、5月21日にバイデン米大統領と文在寅韓国大統領との初の対面での会談が迫っている。韓国政府は、バイデン政権の対北朝鮮政策に韓国の要求が反映された、と主張しているが、米韓関係は相当に厳しい状況だ。バイデン政権が最重視するインド太平洋戦略や対中政策に、文在寅政権がなかなか同調していないからだ。バイデン政権は韓国を無理に、日米豪印の安全保障対話(QUAD)や「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)構想に参加させる考えはないが、逆に、無理をしてまで北朝鮮政策で韓国に同調する必要もないと考えている。文在寅政権が主張する「まず米朝対話を再開し、今年後半には南北対話を再び軌道に乗せる」という構想はほとんど絶望視されている。

そうなると、21日の米韓首脳会談も大きな成果は期待できない。文在寅政権としては、中身が期待できないなら、形だけでも米韓蜜月を演出する必要がある。そうしてこそ、米韓同盟の弱体化を懸念する保守勢力の批判を封じ込めることができると考えているからだ。実際、韓国大統領府は、文在寅大統領が14日、ヘインズ氏と面会して「韓米同盟が更に強化されることを望む」と語ったとブリーフィングした。

一方、米国にしても、米韓関係が揺れているという姿を北京や平壌、モスクワには見せたくない。文在寅政権の対応にケチをつけて、文政権を怒らせるようなことをすれば、逆に韓国内の反米感情に火をつけ、来年3月の韓国大統領選で再び、進歩勢力が政権の座に就くことを後押しする結果を招いてしまう。米韓関係筋によれば、バイデン政権は21日の米韓首脳会談でも、中身がどうであれば、良好な米韓関係を内外に印象づけることに腐心しているという。

こうした米国と韓国のお互いの事情が、ヘインズ氏の異例とも言える公開行脚という結果を作り出した。ただ、日本政府の情報分野で働いた別の元当局者は「韓国は口の軽い奴らだという印象を、米国に改めて与えることにもなった」と語る。今回のツケは、国家情報院が支払うことになるだろう。

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文=牧野愛博

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