エアロゾル(気体中に浮遊する微小な粒子とその周囲の気体)を研究する科学者たちは昨年4月、空気感染について「世界は現実を直視すべきだ」と警告を発した。6月には大気科学や生化学などの研究者らが、新型コロナウイルスの感染経路は「多くが空気感染だ」とする研究結果を公表している。
さらに7月には、研究者239人が医学界と各国と国際的な関連機関に宛て、空気感染の潜在的リスクを認識するべきだと訴える公開書簡を発表。WHOも同月(書簡とは関係なく偶然に)、「科学的事項に関する概説」の中で以下のとおり、感染に関する新たな見解を表明していた。
「…特に、感染者がいる可能性が排除できない屋内の場所で、長時間にわたって混み合い、かつ換気が不十分な場合などには、近距離でのエアロゾル感染が起きる可能性を排除できない」
ハーバード公衆衛生大学院のビル・ヘネージ准教授(疫学)はこのWHOの見解について、次のように解釈できると説明している。
「(感染が)起こり得ると考えるのが合理的だが、頻繁に起きていることを一貫して示す証拠はない」
つまり、准教授の考えではWHOはこのとき、エアロゾルによる感染はまれなことだと捉えていた。
対応はなぜ遅れるのか
空気感染に関する研究結果のレビューを行うと発表してからおよそ10カ月がたって、WHOはようやく、ウェブサイトの「Q&A」のページを更新。次の文章を掲載した。
「(新型コロナ)ウイルスは主に、濃厚な接触がある人同士、通常は1メートルの距離(近距離)にいる人の間で感染を広げていることが、証拠によって示されている。ウイルスを含んだエアロゾルまたは飛沫を吸い込んだり、それらが目や鼻、口に付着した場合に、感染する可能性がある」
「このウイルスは、人がより長時間を過ごす屋内の場所で換気が不十分な場合、混雑していた場合に感染を広げる可能性がある。これは、エアロゾルが空中に浮遊し続けたり、1メートル以上(長距離)を移動する可能性があるためだ」
(WHOは上記の昨年7月の概説で空気感染を、「飛沫核(エアロゾル)の飛散によって放出された感染性物質が感染力を維持したまま、長時間・長距離にわたって浮遊すること」で起きるものと定義している)