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2021.05.25 16:00

人の数だけニーズあり! 不動産業界を驚かせた「三方よし」のサービス

デジタル化によって検索性や利便性が高まっている不動産マーケット。情報を整理するためのルールに従い、ますます物件の記号化が進んでいる。そんななか、利便性向上の裏に隠れた課題を解決するため、ひとつのプラットフォーム「ウチコミ!」が立ち上がった。仕掛人である大友が込めた思いとは。



総研ホールディングス、ウチコミ、プロタイムズ総合研究所、3社の代表取締役社長を務める大友健右。団塊ジュニア世代である彼は、バブル崩壊直後の就職難の時代に不動産業界に飛び込んだ。厳しい環境で営業のノウハウを学び、大手不動産建設会社へ転職。トップセールスを記録し、東京エリア統括部門長として活躍していた。そんななか、彼は不動産業界特有の商習慣、カルチャーの特異性、いびつさに疑問を抱く。

「不動産仲介の現場では、売主・買主、貸主・借主双方から手数料を得る両手取引が横行していました。もちろんこれは利益相反なのですが、より多くの売り上げを上げたいがために続いている慣習です。そのために、自社に来店した人だけに案内できるよう、物件情報を囲い込む。情報をオープンにしていれば早く成約できた可能性があるにもかかわらず、不動産会社の都合で未公開にしてしまうのです」

同じころ、インターネットが一般に広く普及、利用されるようになっていく。さまざまな情報がオープンになっていったが、不動産業界はこのようなクローズドな環境が残っていたという。何もしなければ、業界の慣習ともいえるクローズドな状態はこのまま変わらない。そう感じた大友は、不動産業界の新たな扉を開けるため、業界の真ん中から外に出ることを決意する。

「業界を中から変えていくのは難しいじゃないですか。だから、業界のしがらみのない自由な状況と発想で、外からカルチャーを変えようと考えました」

独立した大友は、外装リフォームなどを専門に行う会社をスタートさせる。

「外装リフォーム業というのは下請けがほとんどでした。それを、お客さまから選んでもらう元請け業として発展させる。直にお客さまと接することで、職人もやりがいとプライドをもって仕事ができ、お客さまも満足してくれるのではないかと考えたのです」 

この思いを裏付けるかのように大友は結果を出す。リフォーム専業会社で成長率日本一を達成。屋根や壁のリフォームを行う外装塗装業は年商2~3億円程度の零細企業が多いなか、プロタイムズ総合研究所は年商45億円をあげるまでに成長する。

ニーズは割り切れるものではない


大友が外装リフォーム業で売り上げを伸ばすなか、不動産情報のデジタル化は進んでいた。24時間いつでも物件を探し、写真も見ることができるようになるなど、物件検索の利便性は向上していた。しかし、これには弊害があった。

「不動産の情報を簡略化しないと多くの物件を扱えません。そのため、アナログで感覚的な情報が流通しないのです。もうひとつ問題がありました。それは、ポータルサイトに物件を掲載するのが不動産会社であるということ。掲載予算にも限りがあるため、反響を取りやすい物件を優先的に掲載する。だからこそ掲載されずに埋もれてしまう物件もあるのです」

情報簡略化による弊害の例を挙げると、例えば駅からの距離。駅から徒歩10分以内で条件を区切ると、11分の物件は選択肢から外される。しかし、駅から家に帰るまでにいろいろな店が揃う11分と、買い物をするためには遠回りをしなければならない9分、ユーザーが本当に求めているのはどちらなのだろうか。さらには、ユーザーにとって価値がある11分の物件がポータルサイトに掲載されていればまだいい。不動産会社のさじ加減で掲載されないケースもあるという。賃貸住宅オーナーにとっては機会損失である。

また、「ペット可」という条件も、デジタル化のためのフォーマットだという。一口にペット可といっても、実際には大型犬や多頭飼いの場合は断られることもある。本来ならばそういったことを明記しなければならないが、デジタル化されたポータルサイトの募集フォーマットでは、細かい説明やニュアンスを訴求することはできない。「ニーズを短絡的にカテゴライズし、デジタル化してしまったがゆえに、入居希望者が本来もっている細かいニーズに対し、きめ細やかな対応ができなくなっています。それがいまの賃貸住宅募集におけるマーケットの現実なのです」


「既存のシステムを変えていくには、カルチャーを変えていけばいい」と語る大友。

賃貸募集マーケットにおける第2の選択肢


こういったアナログな情報が表に出てくれば、これまで利便性を追い求めるために置き去りにされていた本当のニーズをすくいあげることができる。さらには、不動産に新たな価値が反映されるようになるのではないか。そんな大友の思いから生まれたのが、オーナーと入居希望者が直接つながることのできるポータルサイト「ウチコミ!」だ。ウチコミ!ではオーナーみずからが物件の魅力を記すことができ、その物件情報をみずからの意思で公開することができる。

ペットの例であれば、「ペット可。しつけが行き届いていれば小型犬なら2匹まで、大型犬であれば1匹なら可」といった具合に丁寧に情報発信ができる。事実、ポータルサイト上で「ペット可」と表記されているにもかかわらず、いくつも物件を断られた入居希望者が、この情報を頼りにウチコミ!で入居を決めた事例があるという。 

このように、入居希望者はより細かい情報を得て、入居する物件を決めることができる。しかも、仲介手数料無料で借りることができるのも大きな特徴だ。

「これまで賃貸住宅マーケットは既存のポータルサイトしか選択肢がありませんでした。ですが、選択肢がひとつでなければならないということはありません。既存のシステムを変えていくには、カルチャーを変えていけばいい。実際にウチコミ!で、時が変わりつつあることを実感しています。オーナーとユーザーが直接マッチングして、成功体験やアピールのノウハウなど、オーナー同士での情報共有が増えています」

ウチコミ!に登録しているオーナーは1万2,500人を数え、また、内見の立ち会いや契約業務などオーナーをサポートするエージェントの登録は500社を超え、業界でも注目され始めているという。

本質的な意味と存在意義へのこだわり


異なる業界で続けて革命を起こしている大友だが、何が彼を突き動かしているのだろうか。

「サービスの意味や意義が、本質的に存在するかどうか。この一点にこだわっています。外部から見て難しいことをしている、苦労していると言われるかもしれないですが、僕たちにとっては当たり前のことをしているだけ。軋轢も、逆風も起きますが、ブレることは一切ありません。これが我々のスタンダードであり、近い将来、業界におけるデファクトスタンダードになると信じているからです。

空き家問題や、シングルマザー・高齢者など生活弱者の居住問題にしても、1万人いたら1万種類のニーズがあるというのが我々の考え方。実際にウチコミ!でこういった方々が成約している事例もたくさんあります。このような社会問題に関しても我々は正面から向き合っていきたい。空き家問題も住宅セーフティネットに関しても、ウチコミ!で解決することが、単なる募集のプラットフォームではなくソーシャルインパクトとしての価値を提供することにもつながります」 

問題や課題があれば深刻に考えず「ライトでポップ」に進めるという大友。不動産業界の価値観を変えていく存在として、これからも楽しみだ。


ウチコミ!
https://uchicomi.com/



大友健右(おおとも・けんすけ)◎総研ホールディングス、ウチコミ、プロタイムズ総合研究所、3社の代表取締役社長。大手マンション販売会社で営業手法のノウハウを学んだのち大手不動産建設会社に転職。東京エリアの統括部門長としてトップセールスを記録。2010年に独立し、外装リフォーム業の経営をスタート。その後、不動産マッチングプラットフォーム「ウチコミ!」を立ち上げ運用・展開している。

promoted by uchicomi | text by Hirotaka Imai | photographs by Masaki Tomita