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2021.05.15

消失する文化を救う「観光地ブランディング」に求められる、たった2つの視点

米国オハイオ州の州都・コロンバスにある「ドイツ村」では、ドイツの文化が守られている=2019年9月(筆者撮影)

世界中を見渡すと、不思議と観光客を数多く取り込めている土地がある。一方で、観光分野に十分投資しているにもかかわらず、なぜか見向きもされていない土地もある。この差は何なのか。

「顧客」に支持されている観光地の事例から読み解いていこう。

米国で移民が守る「欧州の風景」、開発で受け継ぐ「鉄道の記憶」


自著『カルトブランディング 顧客を熱狂させる技法』(祥伝社新書)でも触れたが、以前、米国オハイオ州の州都・コロンバスにある「ドイツ村」に滞在したことがある。19世紀にドイツからの移民がつくったエリアで、今も古き良き欧州の風景が残る。

アメリカのドイツ村
ドイツ村内の書店にはドイツと米国の国旗が掲げられていた=2019年9月

木の電柱、レンガの道路、赤茶色の民家。19世紀の欧州にタイムスリップしたかのようである。レストランではおいしいドイツビールとソーセージが出てくる。書店にはドイツ国旗が掲げられていた。文化を「正しく」残す取り組みが、ドイツ村の文化と歴史を観光資源たらしめているのである。


ドイツ村のレストランで食べたドイツ風カツレツ。ドイツ料理は詳しくなかったので、レストランスタッフにおすすめ料理を尋ねた=2019年9月

米ニューヨークの公園「ハイライン」は、開発によって歴史と文化をうまく残した事例である。ハイラインとは、廃線になった貨物鉄道の高架部分に作られた、全長2キロを超える線形の公園だ。筆者は2019年夏の夕暮れ時、ゆっくりと散歩した。

鉄道の「記憶」が残る形状の公園は、植生が豊かで、いたるところに現代アートが設置されている。地元民向けに作られたように見えるが、大勢の地元民に交じり、海外からの観光客も多く見られた。

ニューヨークの公園「ハイライン」
米ニューヨークの公園「ハイライン」でくつろぐ人々。地元民に交じって観光客と思われる人の姿も目立った=2019年7月

いずれのケースでも、土地の文化を守り、顧客の期待に応えている。ブランディングの視点で言うと、ブランドの文化を守り、顧客のエンゲージメントを高めているのである。ブランディングにおいて重要なのは、この2点だけだ。

ニューヨーク「ハイライン」の現代アート
ハイラインのいたるところに現代アートが設置されている。植生も豊かで、ニューヨーク在住者によると、季節ごとに違った表情を見せてくれるという=2019年7月
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文・写真=田中森士

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