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2021.05.15

消失する文化を救う「観光地ブランディング」に求められる、たった2つの視点

米国オハイオ州の州都・コロンバスにある「ドイツ村」では、ドイツの文化が守られている=2019年9月(筆者撮影)


どこかの観光地がブランディングに取り組むとしよう。文化や歴史のない観光地は存在しないはずだ。何かしらの歴史や文化を掘り起こすことから、ブランディングは始まる。

文化を破壊する観光地のブランディングなど論外だ。一方で、何もしなければ土地の文化は失われていく事実も覚えておきたい。

失われていく文化に「ストーリーテリング」を


サンファン日本人移住地
南米ボリビアのサンフアン日本人移住地。日本文化が色濃く残るが、現地の若者は文化が失われることへの危機感を募らせていた=2019年7月

筆者がかつて訪れた南米ボリビアのサンフアン日本人移住地で、現地の若者がこう教えてくれた。「南米で日本人の文化が残るのは4世まで。以降は日本語も含め日本文化が消滅してしまう」。地域全体が意識を一つにして、かつ場合によっては法律や制度によって文化を残そうとしなければ、土地の文化は消失してしまうのである。

サンフアン日本人移住地で食べたちゃんぽん
長崎県や熊本県など九州出身者が多いサンフアン日本人移住地には、日本料理店もある。ちょうど日本食が恋しかったので、ちゃんぽんと唐揚げを注文した=2019年7月

一方で、歴史や文化を残す取り組みに力を入れているにもかかわらず、成功していない観光地は世の中に多い。顧客の期待に応える努力を怠っているからである。観光客が求めていない文化を押し付けても、意味がない。

観光資源という素材は、料理の幅が広い。顧客のことを理解したならば、素材を集め、文脈を整理し、顧客に向けたストーリーテリングを施していく。この作業が、文化を守り、顧客のエンゲージメントを高めることにつながる。

顧客のエンゲージメントを高めるという視点で言うと、今は新型コロナウイルス感染症対策が必須となる。十分すぎるほどの対策と関連情報の発信は、顧客に安心感を与え、エンゲージメントを高める。

世界各地を歩いて思うが、観光地のコモディティ化は思いのほか進んでいる。数えきれないほどの土地に滞在したが、印象に残っており、かつ「もう一度滞在したい」と思える土地は一握りだ。違いを出していかねば、どこも生き残れない。

インバウンドバブルがはじけ、パンデミックが世界中を覆い尽くすいま、観光地はある意味同じスタートラインに立ったともいえる。マイクロツーリズムの視点で顧客を再定義するとともに、文化を守りつつエンゲージメントを高めていくことが求められる。


連載:世界を歩いて見つけたマーケティングのヒント
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文・写真=田中森士

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